書評『私も「移動する子ども」だった』

「移動する子ども」それぞれの日本語史――ダイナミックでユニークな人生の足跡

中村栄子(シドニー在住 日本語教師)

この本には「移動する子ども」として日本語を習得している最中の学習者本人,またそれを子どもに施している親,またそういう子どもを教えている教師が,知りたがっている内容が凝縮している。そして「移動する子ども」だった方それぞれのそれまでのダイナミックでユニークな人生の足跡がそこに見てとれる。そこには「移動する子」として複数言語の中で日本語を習得した一連の流れ,つまり習得のプロセス上の言語面・アイデンティティ面でのさまざまな苦悩や葛藤,落胆や自信といった認識や評価,そして将来への展望,が詳しく提示されている。またその流れに川上自身の専門家としての解説が付いているので,「移動する子ども」の日本語習得の現実とその理論とがうまくリンクされ,たいへん分かりやすいながらも高いレベルの理解を促してくれる。ここで発見・確認された言語習得上の現実と理論は教育実践の場に大いに取り入れて行くべきものであることは間違いない。

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表紙『私も「移動する子ども」だった』『私も「移動する子ども」だった――異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』

  • 川上郁雄(編,著)
  • 2010年5月10日,くろしお出版より刊 [紹介ページ
  • 定価:1,470円