紹介記事:私の研究

※この文章は,早稲田大学学生生活課発行『早稲田ウィークリー』の記事「私の研究」第29回を転載したものです。

「外国人力士の番付順位と日本語能力は比例する」という仮説を立てている宮崎里司先生。全学部オープン科目「学習ストラテジー概論:効果的な言語習得のために」では,システマティックな日本語習得経験がない外国人力士が,どのように日本語をマスターしたのかを,実際にそうした力士を講義に招き,インタビューを通してクラスで実証するというユニークな試みを行っている。

五月三十日に行われた旭天鵬関(大島部屋)と先生の対話形式の授業では,テンポのいいお二人の会話に皆熱心に聞き入っていた。現在前頭六枚目の旭天鵬関は,日本に来て八年以上になるが,「今では同郷の旭鷲山関とも日本語で話す」という程である。

さて,先生は,第二言語習得を主な研究分野としているが,その中で,現在は学習者が自分の学習にどのように働きかけるか,という学習ストラテジーを主な研究テーマにしている。その成果は近著『日本語教育と日本語学習-学習ストラテジー論にむけて-』に詳述されている。

「伝統的な教室場面で先生に頼った学習を続けているだけでは,なかなか効果があがりません。また,どうやって覚えるかという問題と同時に,習得したものをどうやって維持していくかということについても,学習者自身が強い関心を払っていく必要があるんです」ということも強調された。さらに,「教室の外でも言語学習に使える材料は多いのに,そうしたリソースを有効に使って継続的に自律学習している学習者は以外に少ない」とも。

「第二言語習得はまだ若い学問分野です。言語習得の問題をデータで実証的に証明し,方法論を確立していかないと,一人前の学問として扱われなくなります」とこれからの課題を語ってくれた。

日本語研究教育センターの口頭表現というコースで,ビデオ会議システム(TeleMeet)を活用している先生だが,「世界の日本語学習者は二百万人。しかし日本に留学できるのは,ほんの一握り。このビデオ会議システムを活用して将来的には海外にいる日本語学習者や日本語教師に役立つプログラムを考えてみたい」とのこと。先生の研究成果がグローバルネットワークを通して,世界に還元される日が楽しみである。

最後に,二〇〇一年度開設を目指して,現在設置申請作業を進めている独立大学院「日本語教育研究科」では,こうした分野を大学院生と一緒に研究していきたいという抱負を語ってくれた。

著者紹介

宮崎 里司(みやざき・さとし)
写真1956年,愛知県生まれ。日本語研究教育センター助教授。日本語応用言語学博士。モナシュ大学日本研究科(オーストラリア)を経て,97年日本語研究教育センター専任講師 99年より現職。研究分野:日本語教育,第二言語習得,学習ストラテジー,談話習得。現在は,外国人力士の日本語習得,バイリンガル教育とイマーションプログラム,異文化接触に伴うアカデミック・スタイルの不適応問題や日本語学習者の脳の言語処理過程などを,主な研究テーマとしている。