トルコ便り「M9.0を超える力――ことば」

工藤育子

3.4月1日,H.I.S.イスタンブル支店訪問

2011年4月16日

かつての勤務校での学生,メルベさんを,現在の彼女の就業先であるH.I.S.イスタンブル支店に訪ねました。

震災へのお見舞いをいただくとともに,震災に関して,あるプログラムが進んでいるという話を聞き,同時に相談を受けました。そのプログラムとは,H.I.S.イスタンブル支店ほか,トルコの旅行業に携わる企業やホテルなどの支援により,被災地の方に一ヶ月のトルコ・カッパドキア滞在を無償[*1]で提供するというものでした。被災地から,約40名の方の参加が決定しています。

彼女たちの心配は,震災の影響で,特に精神的に安定しない状況になったりしないだろうか,他国での生活にとまどったりしないだろうか,今回のトルコ滞在で少しでもゆっくりしてもらいたいが,体調がすぐれない場合や,ことばが通じないことで,緊張が続いたりしないだろうかということでした。滞在先にはH.I.S.との契約旅行代理店もあり,日本語のわかるスタッフもいるが,日本や日本語の専門家というわけでもなく,滞在者の緊急の場合のリクエストに充分に応えることができるかどうか気がかりだ,というものでした。また,単身で申し込んでいる方が多く,ひと月もの時間をどのように過ごしてもらえるだろうかという点でも配慮が必要だと考えている様子でした。

3月11日,東京でM9.0を,そしてその後の数え切れない余震を経験したひとりとして,彼女の心配は妥当であると感じました。ぜひ,旅行者に起こり得る,あらゆる場面に備えてのサポートを検討しておいてもらいたいとお願いしました。

そこで,数日前に訪問した,ネヴシェヒル大学のゴンジャ先生の存在と,彼女の協力の申し出を思い出し,メルベさんに,ゴンジャ先生と日本語日本文学科の先生方に何かしらの協力をお願いしてみてはどうかと提案しました。ネヴシェヒル大学はカッパドキア地方にありますから,滞在先の最寄の日本語関係の学科になります。

メルベさんは上司に,わたしはゴンジャ先生に連絡をして,互いの可能性を探ることになりました。ゴンジャ先生は早速,大学として何かできないかと学長と相談してくれたそうです。そして,トルコ語学科の協力で,滞在者向けにトルコ語講座を開いてくれることになりました。

また,滞在中,問題が生じたら,すぐに日本語で助けを求められるよう,ゴンジャ先生らの連絡先を伝えておいてくれるとのことです。そして,できるだけ早急に解決できるようスタンバイしてくださるということでした。

「過酷な環境にある日本に,どんな支援ができるか」というテーマについて,多くの方がそれぞれ,具体的な行為を伴って,真剣に考えてくれている様子を肌で感じながら,トルコにいます。わたしも同様に,日本語教育を専門とする者として,震災にどう立ち向かうかというテーマを伴いながら,知人を訪問しています。テーマを共有する者同士が,互いの思いを話し合い,情報交換することによって,つながりが生まれ,次々と大きな動きを生み出してきているように感じています。被災地からトルコに来た方にはできるだけゆったりと過ごしてもらいたいと思っています。トルコ側から支援してくださっている大勢の方の気持ちを考えると,その思いは一層強くなります。

[*1] 厳密には航空券代金などに5万円かかっているそうです。それ以外のひと月の宿泊,移動,食事等にかかるすべての費用はトルコ側の負担だそうです。

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