日本語を学ぶ/複言語で育つ――子どものことばを考えるワークブック
川上郁雄,尾関史,太田裕子(著)
- 定価: 1,728円(税込)
- ISBN: 9784874246351
- B5/132頁,くろしお出版より2014年10月21日発売
- 書評コーナー
この本を,オンライン勉強会で輪読しました
ヨーロッパ日本語教師会LSA勉強会
LSA勉強会を立ち上げ,世話役をしているフランス在住の根元佐和子です。この本をテキストに,勉強会参加者と輪読し,情報交換しながら読みたいと思ってはじめました。大変充実した輪読勉強会となりました。以下,参加者のコメントを掲載します。まずは,私から。
本のテーマに沿って,各国の実践,情報を学び合いました
輪読期間は2018年11月から2020年2月と長期になっております。というのも,先生のご著書をもとに,記述されている資料や論文にも細かく当たったりもし,日本からの参加者の意見を聞いたりもしたためですが,そのおかげで,派生的に広く様々な内容を学ばせていただくことになりました。
参加なさっている方の目的は様々かと思います。教師として,親として,補習校関係者として,研究者として,研究をしたい者として,といったように多様な視点からこの一冊の本を読み上げました。
輪読は大変充実していて,教師としての実践体験や,我が子の補習校での経験,研究者としての視点から感想や疑問などを話し合っていきました。ですから,本のテーマに沿って,欧州各国様々な現場での様子の情報交換もできましたし,また,お悩み相談ということもできました。
この一冊で輪読当時,欧州の7カ国(オーストリア,クロアチア,ドイツ,フランス,ベルギー,スイス,スウェーデン)と日本からの参加者とでそれぞれの国の継承語教育の現場の情報交換ができたことは,欧州の教育関係者のつながりの構築にも貢献したと思います。
また,これらの人たちは,各国の,さらに欧州の継承語教育の要ともなりつつあることも欧州の現場にとって大変重要なことかと思います。
さらに,参加者の中には論文を書かれる人も出ており,今後も欧州の各国や日本でも発表や論文などを通じ欧州の継承日本語教育について発信を続けていくかと思います。
先生のご論文を引き続き心から楽しみにしております。
根元佐和子(フランス)
感想や意見を述べやすかった
10か月前にこの勉強会に初参加した際に,先生のワークブックに出会いました。輪読がすでに進んでおり,また私は継承語教育にも携わっていないにも関わらず,勉強会に素早くなじむことができたのは,一つには,「第3ステージ 子どものライフコースを考える」に収められている個々のライフストーリーが大変興味深く,感想や意見を述べやすかったからだと思っています。ありがとうございました。
田村直子(ドイツ,ボン大学)
平易な言葉でわかりやすく,具体的なエピソードも豊富
取り上げられているテーマやキーワードは多岐に渡りますが,平易な言葉でわかりやすく書かれており,このテーマについてあまり事前知識がない参加者がいたとしても使いやすいテキストだろうと思います。具体的なエピソードも豊富にあり,それぞれの参加者が「子どもたち」の状況や心情を想像したり,自分の立場に置き換えて考えたりということがしやすい構成になっていました。今回このテキストのテーマを読みすすめながら,他国で継承語教育に携わる先生方とディスカッションや意見交換ができたことは,私個人にとっても勉強になり,大変有意義な機会となりました。
日本国内で日本語を第2言語として学ぶ子どもたちと海外で日本語を継承語として学ぶ子どもたちの両方について取り上げられているという点も,このテキストのよさの一つだと思います。海外に住んでいると,どうしても日本国内の状況について疎くなってしまいがちですが,自分の住む地域だけではなく,現在の日本国内の状況についても共に考えるきっかけとなったと思います。
第3章(第3ステージ)で取り上げられているライフストーリー調査は,いずれ実践してみたいと思いました。ただ,私は本格的に質的研究を学んだことはないので,テキストの例を使って実際に自分の手で解釈や分析をしてみようとすると,これでいいのだろうか…と自分のやり方に自信を持てないところが出てきました。この章に限って言えば,指導者がいたほうが取り組みやすいのかもしれません。
熊谷容子(スウェーデン,ヨーテボリ補習校/ダーラナ大学)
子どもたちの気持ちを考えて教育する必要性を再認識
『日本語を学ぶ/複言語で育つ』では,多くの事例を知ることができました。継承語として学ぶ子どもたちの気持ちに関する新しい気づきや,子どもたちを考えて教育する必要性を再認識いたしました。勉強会では,この本を通して,自分たちのケースにあてはめ研究会参加者同士でも深く話し合える貴重な経験を得られました。
本の中で紹介されている実例は,現在継承語として日本語を学んでいる子どもたちやそれに携わる方たちの見聞を広めると思います。
村田恵美(クロアチア,ザグレフ大学)
大変有効な教材だと思いました
私どもの勉強会は,AJE(ヨーロッパ日本語教師会)のG N(グローバルネットワーク)プロジェクト以降の活動の一つとして,会員たちが無理のない形で参加する勉強会として続いています。オンライン形式の勉強会で,十数名の方が登録されており,毎回1時間輪読形式で先生のご著書の『日本語を学ぶ/複言語で育つ― 子どものことばを考えるワークブック』を読み,話し合いを持つという形式で始まりました。常に先生のご著書を輪読するだけでなく,臨機応変に仲間の発表論文を読み,話し合うこともありましたし,日本の大学のゼミの大学生,院生などと話し合いを持つという活動もありました。また,勉強会参加者のそれぞれの国での継承日本語教育の状況を共有するということもでき,現在も,大変和やかな勉強会が続いています。
私の読後の感想をお知らせいたします。
まず,このご著書では,先生のおっしゃる,いわゆる移動する子どもたちとはどういう状況に生きてきた子どもなのかを把握するための様々な実例を知ることができ,ワークショップ形式で受講生自身が考え,また受講生同士が話し合うことで,このような子どもたちへの理解を深め,日本語教育を考えることができるという大変有効な教材だと思いました。
また,欧州における複言語・複文化主義の社会で育っていない日本の受講生には大変新鮮で学びの多い教材ではないかと思います。
三つのステージによる構成も受講生にとって学習しやすいのではないかと思いました。また,各回にあるキーワードは学術的なまとめともなり,さらにコラムといった形での情報提供の方法が私には大変勉強になりました。また巻末にある関連図書の紹介,そして授業デザインに関する言及も大変役に立ちます。
私どもの勉強会では,ご著書を読み進む中で,各ステージのテーマをきっかけに会員が発言していき,お互いの考えや経験などを共有しながら深い学びができたと思います。私どもの勉強会は欧州というところで長年,日本語を教えている方たちが多いのですが,日本での移動する子どもたちの日本語教育に関しても考えることができ勉強になりました。
今後の先生のご健勝とご活躍をお祈りいたしております。
フックス清水美千代(スイス,バーゼル日本語学校)