書評『私も「移動する子ども」だった』

言葉の獲得に必要なこと

片岡伸子(社団法人 読書推進運動協議会)

今回,『私も「移動する子ども」だった』を読み,この10人が言葉を獲得してきた理由として一番大きいのは,「その言葉を使って伝えたいことがあるのか,知りたいことがあるのか,つながりたい人がいるのか」という点だと感じた。登場する10人がみな,自分を表現することを生業としていることは,偶然ではないだろう。

もうひとつ感じたのは,みな,自分のルーツを見つめており,自分の両親・祖父母が暮らしてきた文化を大切にしていること。もちろん,反抗期等もあっただろうが,親への深い信頼が見てとれる。おそらく,親への信頼があるからこそ,周りの子どもとちょっと違った自分を否定することなく成長してきたのではないだろうか。

ところで,「移動する子ども」にはこの10人とは異なり,言葉・習慣の壁を乗り越えられずに辛い思いをしている子もいると思われる。この差はどこから来るものかを知りたいと思う。

<< 書評の目次< 前の書評次の書評 >

表紙『私も「移動する子ども」だった』『私も「移動する子ども」だった――異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』

  • 川上郁雄(編,著)
  • 2010年5月10日,くろしお出版より刊 [紹介ページ
  • 定価:1,470円