書評『私も「移動する子ども」だった』

社会の偏見差別を変えていくのは個人である

ニシムラ・パーク葉子(オーストラリア・ニューサウスウェールズ州教育訓練省)

コミュニケーションに使える英語を習いたいと要望がこれだけ多いにもかかわらず,今の学校教育ではそのニーズを満たしていないようである。この学校の語学教育のあり方を見直すとすれば,その指針はこの10人の声の中に静かに力強く表現されている。そして,日本はもはやモノカルチャーの国ではなく,バイリンガルと言えば日本語・英語という対極的に考える時代は終わっているという事実を具体的に見せてくれる。

さらに,国際化の必要性が叫ばれて久しいにもかかわらず,社会の実像はまだまだ古い固定観念の枠を取り除いていないのだということが,この10人の目を通してよく見える。また,この10人のインタビューを読み,社会の偏見差別を変えていくのは,個人があらゆるレベルで個々の考え方を変えてゆくしかないということに改めて気づかせられた。この10人の方々の心の奥からの声を引き出してくれたのはドクター川上のこの研究に対する情熱と「移動する子どもたち」に対する深い理解と愛情の賜物であると信じて疑わない。

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表紙『私も「移動する子ども」だった』『私も「移動する子ども」だった――異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』

  • 川上郁雄(編,著)
  • 2010年5月10日,くろしお出版より刊 [紹介ページ
  • 定価:1,470円