書評『私も「移動する子ども」だった』

真の人間形成に役立つ日本語の教材作りに役立てたい

ニシムラ・パーク葉子(オーストラリア・ニューサウスウェールズ州教育訓練省)

2011年,オーストラリアNSW州では,継承語としての日本語(Heritage Japanese)という選択科目が登場した。「移動する子どもたち」の為の日本語だ。ナショナルカリキュラムの一貫として,第一期生がすでに学習を開始している。学生は2年間で5つのテーマを軸に選ばれ開発された教材を学習してゆくのであるが,そのテーマのひとつがJapanese Identity in the International context というものである。この科目のためのシラバス及び教材開発に現場の先生たちと会議を重ねてきたが,このIdentityという言葉に悩むこともしばしばであった。その日本語には訳しきれないIdentityという観念が,この本の中にはっきり,すっきり表現されていた。もっと早く読んでいれば!というのが,正直なところの感想である。これからも続く教材開発に向けて,現場の先生達とこの本を読み合い,話し合い,語学教育にとどまらない,真の人間形成に役立つ日本語の教材作りに励みたい。この移動する子ども達が将来国際社会の担い手となるのは明らかであるから。すごく大きなエネルギーをこの本からもらった。

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表紙『私も「移動する子ども」だった』『私も「移動する子ども」だった――異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』

  • 川上郁雄(編,著)
  • 2010年5月10日,くろしお出版より刊 [紹介ページ
  • 定価:1,470円