書評『私も「移動する子ども」だった』

伝えたい気持ちは言葉になる

小川二美子(フィリピン在住,会社員)

私の夫はフィリピン人で,17年前からフィリピンで暮らしています。そして,フィリピン人の結婚ビザや短期滞在ビザの書類を揃え,日本に送り出す仕事をしています。

日本語を忘れたくない夫との会話は日本語ですが,職場でのコミュニケーションはタガログです。タガログ語は,数ヶ月間語学学校で習いました。初めは文法に気をつけ,丁寧に話していましたが,少しも会話は弾みませんでした。だんだん,どうしても相手に伝えたいことが増え,少々の文法の間違いは,おかまいなしで,言葉を重ね,繰り返していきました。

その経験から,言葉は伝えたい気持ちがあれば,ちゃんと働いてくれると感じました。

この本を読んで,登場する人たちが複数の言葉の中で揺れながら,それでも自分のアイデンティティを作っていく様子がわかりました。彼らには伝えたい気持ちがあるので,どんな言葉を使っても,自分を表現することができるたくましさを感じました。

<< 書評の目次< 前の書評次の書評 >

表紙『私も「移動する子ども」だった』『私も「移動する子ども」だった――異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』

  • 川上郁雄(編,著)
  • 2010年5月10日,くろしお出版より刊 [紹介ページ
  • 定価:1,470円