書評『私も「移動する子ども」だった』

「自分」を持っている子どもへ成長してほしい!

渡辺未穂子(ニューヨーク在住,子育てママ)

本書は,異なる言語体験をもつ10人の方々とのインタビューと,それに続く川上先生の分析。

一つ一つの言葉が現在NYで「移動する子ども」を育てている私の心に響きました。幼少期に多言語環境にいると簡単にしゃべれるようになるんでしょ?と言われ続けてきましたが,わが子は4歳で日本からアメリカに来て,2年間も英語を使いませんでした。現在8歳の彼は日本語の読み書きを教えようとするとチック症状が出ることもあるほど,日本語は「考えなくてはなかなか出てこない」言葉になっています。

本書に登場するみなさんの体験から,バイリンガルだとしても強い言語能力のほうと,そうでないほうがあることがわかり安心しました。そして,『子どもの目線でみると複数言語を学ぶことも維持することも,必ずしも容易ではないようにみえます。』(p.208)や,「不安感を秘めた言語能力意識」を乗り越える原動力として,「自分は自分」という意識をもっている,という点を指摘されているところが示唆に富んでいました。また,『子どものもつ「生命力」を信じて』(p.219)という言葉に大変励まされました。

この本は移動する子どもと関わるすべての人,そして子ども本人に読んでもらいたい本です。かつての「移動する子ども」であり,現在「移動する子ども」を3人もつ親より。

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表紙『私も「移動する子ども」だった』『私も「移動する子ども」だった――異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』

  • 川上郁雄(編,著)
  • 2010年5月10日,くろしお出版より刊 [紹介ページ
  • 定価:1,470円