修士課程 9期生

2005年春入学

來栖 里美(クルス サトミ)

大学卒業後,銀行に4年勤務していたのですが,もっとやりがいのある仕事がしたいと思い,これといったあてのないまま退職しました。退職後,たまたま宇都宮の日本語学校で事務職を募集しているというので面接に行き,そのまま,事務,非常勤,常勤と,5年もその学校にいすわってしまいました。日本語教師を始めたきっかけはほんの偶然と成り行きでしたが,始めてみるとその楽しさ,おもしろさにすっかりはまっていたのです。

大学院修了後は,就学生対象の日本語学校に非常勤講師として勤務しています。また,ビジネスマン向けの日本語学校でも教えています。大学院で学んだことを授業に結びつけ,授業の質を高めていきたいと日々心がけています。

修士論文のテーマ

「語彙の観点から文型の学習段階を再考する」というテーマのもと,移動の目的表現「~に行く」を例に研究を行った。

「~に行く」文型は,「たばこを買いに行く」「買い物に行く」のように,「行く」「来る」「帰る」といった移動動詞を伴い,その移動動作の目的を表現する。「~に行く」文型には,前者のように動詞の「ます形」と結びつくものと,後者のように名詞と結びつくものとがある。日本語教育では初級段階でこれらを同時に指導することが多いが,語彙の観点からその学習段階が妥当といえるかを,語彙的な制限と実際の使用例から検討した。

学位論文
  • 来栖里美(2008).『語彙の観点から文型の学習段階を再考する――移動の目的表現「~に行く」を例に』早稲田大学大学院日本語教育研究科修士論文(未公刊).

前坊 香菜子(マエボウ カナコ)

昔から言葉に興味を持っていましたが,日本語教師養成講座に通い始めたことが日本語教育との出会いです。日本語教育能力検定に合格してから,一年間はボランティアで,その後日本語学校で教えていました。また,日本語学校で教えるかたわら通った大学の卒業研究で誤用分析に取り組んだのですが,その際,学生の語の使い方に興味を持ち,日本語の語彙についてさらに深く考えたいと思い,大学院への進学を決意しました。

大学院に入学してからは,自分のテーマに関する研究をすると同時に,幅広い分野についても学ぶよう心がけました。仕事も続けていたため忙しい毎日でしたが,充実した2年間を過ごすことができました。

2007年3月に修士課程を修了し,現在は早稲田大学日本語教育研究センターで日本語講師として勤務しています。また,NPO日本語教育研究所においてJETプログラムの通信教育(言語・教育コース)の運営,財団法人海外技術者研修協会でのe-learningコースの学習支援などにも携わっています。

2009年から一橋大学言語社会研究科博士後期課程に進学しました。さまざまな文体の文章と語彙の文体的特徴との関連について研究したいと考えています。

修士論文のテーマ

学習者の語の選択に関して,主に「語の文体」に焦点を当てた研究を行った。

文章の文体と合わない語を使用すると読み手は違和感を抱く。ある程度の学習レベルになっても,文章の文体に適切な語を選択することは困難な場合が多い。その要因の1つとして,指導につながる「語の文体」に関する研究が十分ではない点が挙げられる。

本研究は,「言語」と「学習者」双方への調査を行うことにより,「語の文体」をめぐる問題点を明らかにすることを目的とした基礎研究である。まず,辞書と作文教材における「語の文体」の扱いを概観した。次いで,主にレポートで使用される副詞に焦点を当て,論文での使用実態とそれらの副詞に対する学習者の意識を調査した。今後も言語データと学習者への調査を継続して行い,最終的には指導に結び付けていきたいと考えている。

学位論文
  • 前坊香菜子(2007).『日本語教育における「語の文体」をめぐる問題点――副詞を中心として』早稲田大学大学院日本語教育研究科修士論文(未公刊).

業績

口頭発表
  • 原田康也・前坊香菜子・河村まゆみ・鈴木陽一郎・鈴木正紀(2008).授業のデジタル化――教員の暗黙知の共有化に向けてコンピュータでできること『平成20年度情報教育研究集会講演論文集』(pp.177-180).
  • 原田康也・前坊香菜子・河村まゆみ・前野譲二・楠元範明・鈴木陽一郎・鈴木正紀(2007).VALIS――学習者プロファイルに基づく学習者音声コーパス構築を目指して『情報処理学会研究報告――コンピュータと教育研究会報告』67,169-176.(コンピュータと教育研究会第88回研究会研究報告)[要約
  • 原田康也・前坊香菜子・河村まゆみ(2007).VALIS――英語学習者発話データの書き起こし『情報処理学会研究報告――コンピュータと教育研究会報告』69,1-8.(コンピュータと教育研究会第90回研究会研究報告)[要約
  • 原田康也・前坊香菜子・河村まゆみ・鈴木正紀(2007).VALIS――英語学習者のプロフィールと発話データの収集『電子情報通信学会技術研究報告――思考と言語 Technical Report of IEICE』TL2007(38),25-30.[要約
  • 前坊香菜子(2007).辞書における「語の文体」に関する一考察――位相注記の調査から『早稲田大学日本語教育学会2007年春季大会研究発表資料集』(pp.45-48)早稲田大学日本語教育学会.
  • 藤本かおる・前坊香菜子・児島秀和・春原憲一郎(2006).e-learningにおけるメールを使った学習支援(メンタリング)について――『WBT AOTS 日本語コース』の場合(Mentoring by the e-mail in e-learning: In the case of a WBT AOTS Japanese course.)『日本語教育方法研究会誌』13(2),40-41.(第27回日本語教育方法研究会:仙台国際センター)[原稿:PDF][ポスター:PDF
ポスター発表
  • 前坊香菜子(2009).語の文体的特徴に関して学習者はどのように認識しているか――類義語の副詞に対する調査から『日本語教育方法研究会誌』16(1),14-15.(第32回日本語教育方法研究会)[プログラム(p.3):PDF
  • 前坊香菜子(2008).レポートを書くときに学習者はどのように語を選択するのか――副詞を中心として『日本語教育方法研究会誌』15(1),16-17.(第30回日本語教育方法研究会)[プログラム(p.4):pdf
  • 前坊香菜子(2007).辞書における「語の文体」に関する情報――位相注記の調査から『日本語教育方法研究会誌』14(1),78-79.(第28回日本語教育方法研究会)[プログラム(p.10):PDF