佐藤貴仁さん――財団法人交流協会台北事務所日本語専門家

台湾の「言語事情」

音声コミュニケーション研究室博士後期課程の佐藤貴仁です。現在は一時休学して,台湾の台北で仕事をしています。早いもので,赴任してから3ヶ月が過ぎました。これから,折を見てこちらでの生活・活動について報告していこうと思っていますが,今回は「言語事情」について,少しお話しすることにします。

こちらに来て驚いたことの一つに,台湾の複雑な言語事情が挙げられます。例えば,台北市内を走る地下鉄のアナウンスには「国語(いわゆる中国語。『台湾華語』とも呼ばれている)」「台湾(ホーロー)語」「客家語」「英語」の4つの言語が使用されています。つまり,「英語」は別としても,他の3言語を理解する人々が生活しているということになります。その3言語のうちのいわゆる「中国語」は公用語に指定されているので,台湾に住む人々の大半が使用している言語だということを意味しています。ということは,先のアナウンスの例は,「国語」+「他言語」という「複数の言語」を操る(若しくは理解する)人々が少なからず存在することを如実に物語っていることだと言えるでしょう。実際,台湾では1言語しか話せないという人はむしろ少数であると言われています。また,複数言語話者は場面や相手によって,自由に言語を使い分けているそうで,同じ家族でも父親と会話する時は客家語,母親と会話する時は国語を使用するといった例や,友人でも親疎の別や性別によって,使用言語を切り替えるといったことも日常的に行われているようです。また,漢人系住民が渡ってくる前から台湾に住んでいた「原住民」の言葉も含めると,ここで使われている言語及びその使用体系は複雑を極める,といった感は拭えません。

しかし,なんといっても公用語は「国語」であり,どこへ行ってもほぼ間違いなく通じる言語です。という訳で,こちらへ来てから「国語」の勉強を始めました。でも,なかなか上達しません。その理由の一つ(自分の能力はさておき)として,「日本語世代」と呼ばれる人々の存在と人口比世界一といわれている日本語学習者人口の多さを指摘することができます。つまり,日本語を理解する人々が日常に多く存在するということです。実際,言葉が通じなくて困っていると,日本語が分かる人が現れて助けてくれた,といったことも何度となくあります。このような環境から,私の言語学習はなかなか上手くいかないという訳ですが,地道に頑張りたいと思っています。