アーラム大学(米国インディアナ州)

報告者:久住まち子
アーラム大学日本語日本文学科(インディアナ州)ティーチングアシスタント

1. 大学紹介

私が約一年間ティーチングアシスタント(以下 T.A.)として勤務していたアーラム大学は,総学生数約1000人のリベラルアーツ・カレッジです。中西部のとうもろこし畑の中にあるこの大学は,キャンパス内にリスが走り回り,学生同士もみな顔なじみというとてものどかで,こじんまりした雰囲気の大学です。しかし1960年代に全米でもいち早く日本研究のコースを開設したことや,様々な日本留学プログラムを通して多くの学生を日本に送り出していることから,アメリカの日本語教育,日本研究という領域では伝統ある大学と言えます。また春学期になると,アーラムで日本語や日本文学を学びたいという高校生達が全米から,日本語日本文学科のクラスを見学しに集まってきます。

2. T.A.の仕事

T.A.の主な仕事は,月曜日から金曜日までクラスに入り,専任教師の補佐をすることです。学生とペア練習をしたり,会話のモデルを見せたりするだけでなく,クイズの採点,成績管理,廊下のディスプレイ,学期末のパーティの運営等,仕事内容は多岐に渡ります。アシスタント業務だけでなく,レッスンプランを作って専任の先生に見ていただき,週に3コマは実際に自分で授業をしました。また毎日授業の初めに5分間もらい,漢字の導入と復習をしました。アーラム大学ではフランス語,ドイツ語,スペイン語,日本語のすべての外国語のT.A.は,学内の敷地内にある家に,その言語を履修する学生と一緒に住んでいます。毎週日曜日は持ち回りで夕食を作り,ハウスメイトとおしゃべりをしながら食事するというルールがありました。また私が学内のコーヒーショップで仕事をしていると,いつの間にか日本語の学生達が同じテーブルに座っていて,結局仕事もせず,夜遅くまでおしゃべりするということも何度かありました。アーラムの学生にとってT.A.は,「日本語学習の力になってくれる仲間」であったのではないかなと思います。

3. 学生達の学習動機

欧米系の学生によく見られるように,アーラム大学でも日本のアニメやマンガ,映画,Jポップの影響で日本語に興味を持つ,という学生が圧倒的多数を占めていました。しかし中にはアンチ・アニメのような学生もいて,彼らは自分がアニメファンだと誤解されることに強い嫌悪感を示していました。そのような学生達からは,高校生のときに日本でホームステイし,すっかり日本に魅せられたとか,アーラム大学にいる日本人留学生と仲良くなり,日本に興味を持ったということをよく聞きました。どの学生も日本のテレビCMや映画などには大変感心があり,録画したビデオを見せたときにはとても真剣に,また大盛り上がりして見ていました。

4. 学生達の待遇コミュニケーション

残念ながらまだアーラム大学には「待遇コミュニケーション」という概念は浸透していませんでした。しかしそれでも学生一人一人が,日本からの留学生や教師との教室内外での日本語によるやりとりを通し,自らのコミュニケーションのあり方と格闘しているのだなという印象は,常に受けました。アーラム大学の日本語クラスでは「先生にはこう,友達にはこう言うこと」のように教えられてはいないにも関わらず,教室内かカフェテリアか,専任教師の前か,T.A.だけがいるのか,などによって語彙や話体を使い分けようとしている学生が何人もいました。また授業後にこっそり「ルームメイトを驚かせたいので,日本語のくだけた話し方や,悪い言葉(!)を教えてほしい」と言われたことも多々あります。そんなときよく,人間関係や場や配慮するという待遇コミュニケーションの基本的な考え方は,日本語に留まらずあらゆる言語に普遍的なのではないかなと思いました。