パソコンテレビ会議システムを利用した日本語教育の試み
宮崎里司

※『留学生教育』5号,91-107頁,Japanese Language Education via Video Conferencing System を転載

  1. はじめに
  2. 早稲田大学での日本語教育への応用
  3. データ収集
  4. 日本人参加者の反応
  5. 日本語学習者の反応
  6. 日本語教師の反応
  7. 今後のテレミートの応用
  8. 結語

キーワード:日本語教育,テレミート,インターアクション,ネットミーティング,日本人参加者

1. はじめに

パソコンテレビ会議システムとは,主にデスクトップ型パーソナル・コンピューターを介した双方向の通信映像システムで,デスクトップ用小型カメラによって映し出されるお互いの映像を見ながら,ヘッドセットのマイクを通して,音声によるリアルタイムのインターアクションを可能にしたものである。このシステムは,同時に,画面上の電子ボード(ホワイトボード)内で写真や図,キーボードから入力された文字などの,さまざまなコミュニケーションのチャンネルを使ってインターアクションできる機能も有する。これを利用することによって,第二言語または外国語学習者が,ネーティブスピーカーと自由にコミュニケーションできる学習環境が提供され,学習者のインターアクション能力や自律学習能力の発達を促す機能をもたらす。

本稿は,早稲田大学で行われた,パソコンテレビ会議システムを使った,日本語教育への試みと,そのコースに関わった,日本語学習者,日本人ボランティア,並びに日本語教員から得られたアンケートやインタビュー調査をもとにした分析結果から,これからの日本語教育にどのように応用すべきかについて考察することを目的とする。

2. 早稲田大学での日本語教育への応用

このテレビ会議システムは,もともと英語名 (video conferencing system) の頭文字を取って,VCONと呼ばれているが,早稲田では,現在テレミート (TeleMeet) という名称で呼ばれている。テレミートは,キャンパスの情報環境整備の一環として,元来英語学習者のために導入されたものであったが,筆者がコーディネートしていた,1999年度早稲田・オレゴン夏期日本語プログラムで行われたワークショップのマルチメディア日本語コースから,実験的に始められた。学内LAN環境の中で,ISDN (Integrated Services Digital Network) 回線を利用し,西早稲田キャンパスにある22号館(インターナショナルセンター)と戸山キャンパスにある,文学部36号館マルチメディア1をつないで,日本語学習者(西早稲田キャンパス)と早大生ボランティア(戸山キャンパス)による1対1のリアルタイムのネットミーティングを,週1回,およそ30分間行った。

このミーティングの事前段階として,学習者にテレミートの取り扱いに関する情報を与えるため,例えば,2000年度別科日本語専修課程(前期)の口頭表現クラスでは,担当教員のホームページに,取り扱い説明,利用イメージ図,利用イメージビデオを提供しておいた。今回のテレミートは,単なる参加者間のおしゃべりの目的では使用せず,日本語学習者が,接触場面でのインターアクションで必要と思われる,いくつかのトピックについての情報を処理するための手段として導入された。具体的には,日本人ボランティア並びに日本語学習者双方に関心があるトピックで,中級レベルでは,具体的なトピックを,一方上級レベルでは,やや社会的なトピックを選択し(グラフ1参照),コミュニケーション交渉によって,インフォメーション・ギャップを埋めるタスクになりうるようなものを選択した(実際にクラスで使用したタスクシートは,付録1 [PDF:14kb]を参照)。

グラフ1

3. データ収集

テレミートは,1999年度早稲田・オレゴン夏期日本語プログラム(*1)のマルチメディア日本語コース(中級前半レベル),日本語研究教育センター内の,2000年度別科日本語専修課程(前期)の口頭表現クラス(*2)(中級後半及び上級レベル),及び2000年度早稲田・オレゴントランスナショナル・プログラム(*3)のレベル2,3(初級後半及び中級後半レベル)で導入されたが,そうした日本語クラスに参加した,早稲田大学に在学する日本人の学生ボランティアからの,アンケートによるフィードバックをもとにした分析を行った。質問形式は,自由回答方式(アンケート [PDF:24kb])でテレミート終了後,速やかに書いてもらい,リサーチアシスタントに回収させた。また,日本語学習者からのフィードバックは,口頭表現レベル5の前期最後のクラスで,在籍者を対象にした,同じく自由回答方式のアンケート調査から得た。さらに,こうしたクラスを担当していた日本語教師にも,インタビュー調査を行い,テレミートを教材として使った際の問題点などについてコメントしてもらった。

*1. 1999年6月21日より8月13日までの8週間行われた。

*2. 別科日本語クラスは,技能別に分かれており,初級レベルを除き,口頭表現クラスのほかに,聴解,読解,文章表現,文法,総合などが設置されている。

*3. このプログラムは,アメリカのオレゴン州ポートランドにあるポートランド州立大学と日本の早稲田大学という二つのポーションで日本語教育を行うものであるが,2000年は1月7日から6月23日の早稲田ポーションのみ行われた。

4. 日本人参加者の反応

まず,日本人参加者のテレミートに参加した理由であるが,国際交流を理由に挙げた者が最も多かった。その他には,日本語教育への関心や,ボランティアとしての参加という理由が続いた(グラフ2参照)。話し合われたトピックは,グラフ1で示したとおりだが,トピックのイニシアティブについては,予め,タスクの内容がはっきりしていたため,中級レベル,上級レベルの学習者とも,日本人よりイニシアティブを多く取っていた。ただし,上級レベルのタスクがやや抽象的なトピックであったため,中級レベルよりも,日本語母語話者にイニシアティブを取られた割合が高かったようである(グラフ3参照)。

グラフ2

グラフ3

早大生ボランティアは,テレミートを通しての日本語学習者との会話に問題を感じていたかについて,レベル別の反応を分析した。これによると,中級レベル,上級レベルとも「問題なし」が,「問題あり」をそれぞれ40%以上上回っていた。これは,初級レベルが参加していなかったことによることも理由の一つだと推察できる。アンケートでは,さらに,問題と感じていた項目についても聞いた。グラフ4が示すとおり,日本語学習者の話し方の中で,どのような不適切さを感じたかという問いについて,助詞の使い方,発音,イントネーション,時制,活用などという,主に文法面での問題点の指摘が多かった。これは,日本人ボランティアの中に,日本語教育の経験者がいなかったため,コミュニケーション能力や社会文化能力を含めた総合的なインターアクション能力に関する不適切さをマークすることができなかったことが原因ではないかと思われる。

グラフ4

また,テレミートを通した会話に関して違和感を覚えたどうかという質問に対して,音声,次に映像に問題があると報告した割合が高かった(グラフ5参照)。具体的な音声の問題として,エコーが入るといった問題が指摘された。映像はCU-SeeMeと比べ,一秒間で約25枚送りと,技術面での改良は見られるが,依然として違和感を感じていた参加者が多かった。

グラフ5

このテレミートには,ホワイトボードという電子ボードソフトの機能が備わっている。テレミートが映像と音声によるチャンネルのインターアクションだとすれば,電子ボードは,文字チャンネルによる情報交換といえる。グラフ6は,日本語学習者とのテレミートの場面でホワイトボードを使用したかどうかについての調査結果である。中級レベル,上級レベル両方で,使用した割合が使わなかった割合より高かったが,その割合は,中級レベルに対しての方が高かった。これは,中級レベルの学習者に対しては,ホワイトボードを使った方が,より正確な情報交換をすることができると判断したのではないかと推察できる。次に,このホワイトボードを使用した日本人参加者に対して,使いやすかったかどうかを質問したところ,使いやすいと答えた割合が,使いにくいと答えた割合を上回っていた。この場合も,中級レベルに対しての方が,より使いやすいと答えており(グラフ7参照),中級レベルに対する使用率と比例している。具体的には,「e-mailのアドレスを交換する際などは間違いがない」,「伝えたいことが正確に伝わってよい」,「漢字の説明に役立った」,「日本語を正確に伝えたいときに役立つ」,「地図などを書いた」,「名前などを教えるときに役立った」などとコメントしていた。

グラフ6

グラフ7

さらに,今後もこうした活動に参加してみたいかという質問に対しては,回答者の大部分が「はい」と答えていた(グラフ8参照)。今回は,日本人と日本語学習者による,1対1のネットミーティングであったが,テレミートの形態はいろいろ考えられる。例えば,ネットワーク型講義や,教員を交えた,小グループ同士によるネットワーク型ディスカッション,または,1対1ではなく,3,4人がそれぞれ別の地点で話す多地点型テレミートによるコミュニケーションなどである。こうした形態のうち,語学学習には,グループ同士や多地点型のインターアクションが効果的であると考えられるが,この質問に対し,半数近くがそうした形態を望んでいた(グラフ9参照)。ただし,「面白いかもしれないが,話せない人も出てくるかもしれない」,「グループでやるなら,テレミートではなく,実際に会って話してみたい」などのようなコメントも添えられていた。これらは,日本語学習者にテレミートを使ったインターアクションをどのように動機づけていくかという問題と深く関わっているといえよう。

グラフ8

グラフ9

今回のテレミートの導入は,パイロット的な意味合いがあり,どのような形態が,学習者の日本語習得に役立つかについて,十分検討する時間がなかった。また,それほど離れていないキャンパス間でのテレミートの使用については,当初学習者から疑問視する声が出るのではないかと懸念したが,編面教師側としては,むしろこのテレミートを使って,実際に接触するためのネットワークを形成するきっかけになるリソースにしてもらいたいという意図もあった。日本人とのネットワークの形成は,日本語習得過程で最も重要な学習ストラテジー(社会的ストラテジー)の一つと考えられるが,テレミートによるインターアクションが,そうしたストラテジーの習得を促進させるきっかけになる可能性は高いと思われる。日本人ボランティアからも,キャンパス間でテレミートを行うよりは,実際に話した方がよいのではないかという意見があり,その代わり,むしろ海外とのセッションをしてみたいといった希望もあった。さらに,技術的な問題として,日本人側のテレミートの設置について,席が近かったため,隣の人の距離が気になったというコメントもあった。いずれにしても,テレミートを導入する前に,参加者には,しっかりした目的と目標を理解させておく必要がある。

5. 日本語学習者の反応

これまで,テレミートに関する日本人参加者の反応を見てきたが,ここで,日本語学習者側からのフィードバックも検証してみたい。今回は,筆者担当の,別科日本語専修課程の口頭表現レベル5(中級レベル)の在籍者(15名)だけを対象にしたため,テレミートワークに参加した日本語学習者全員からの,十分なフィードバックを得ることはできなかったが,ある質問項目に対しては,日本人参加者とほぼ同じ傾向が表れた。まず,テレミートの音声,映像については,時々聞きにくかったり,音声が届くのにやや時間がかかるなどという面はあるものの,全体的にそれほど大きな問題は感じなかったという反応が多かった。次に,映像についても,動きの遅さが否定的に評価されたが,慣れるに従って気にならなくなったと答えた者が多かった。全体的には,動きが遅いと指摘した者より,問題なしと答えた方が多かったといえる。

日本人ボランティアと同様,日本語学習者に対してもホワイトボードを使ったかどうかを調査したところ,使ったと答えた者が8割近くに上った(グラフ10)。さらにコメントとして,ホワイトボードは,漢字を書く時や,難しい言葉,名前などの情報処理に便利だという反応が多かった。なお,これからもテレミートを使ってみたいかという質問には,日本人の学生の意見が直接聞けるなどの理由で,大多数が使ってみたいと答えていた(グラフ11)。これは,早稲田大学で,1999年度後期に行われた英語チュートリアルでテレミートを使った際に,日本人英語学習者からの反応として,再びテレミートを使った授業を受けてみたいと答えた割合が,8割を越していたことからも,外国人留学生や日本人の区別なく,こうしたマルチメディアを授業に応用したいと考えていることが明らかになった。ただし,日本人ボランティアと同じように,国内間よりも外国との通信で使ってみたいという意見が強かった。さらに,テレミート以外の問題も提起された。その一つが,日本人ボランティアの問題であった。2つのキャンパス間での1対1のネットミーティングのためには,ボランティア側も同じ人数を調達することが理想であるが,実際には,多くて3,4人程度しかアレンジできなかったために,日本語のクラスの学生は,順番制でタスクをこなさなければならなかった。日本語研究教育センターでは,99年度からボランティア登録制度をはじめ,日本語クラスに参加してくれる早大生を募っているが,クラスに参加を希望した学生が,さまざまな理由で,参加できなかった場合には,毎回タスクの方法を変更せざるをえなかった。そうした場合,ボランティアとして参加してくれた学生は,同じトピックについて何度も話すことに飽きてしまい,活発なインターアクションが起こりにくい場合も懸念された。さらに,日本語学習者側からも,パソコンを通じた会話ではなく,ボランティアと直接話をしたいという希望も寄せられたが,全体的には,先端技術を語学教育に応用する試みとしてある程度評価していた。また,今回のテレミートの経験から,将来どのように利用したいかについても書いてもらったところ,日本人の友人とのインターアクションやe-mail チャット,さらには,日本語ボランティアのコメントと同様に,海外と日本での交信に使いたいという意見が多かった。

グラフ10

グラフ11

6. 日本語教師の反応

以上,テレミートに参加した,日本人ボランティア並びに外国人日本語学習者からのフィードバックを分析した。では,そのコースに関わった,もう一つのグループである日本語教員は,テレミートについてどのように評価し,かつそのアクティビティをどのように観察していたのであろうか。筆者は,2000年度別科日本語専修課程(前期)の口頭表現クラス担当の教員3名に,コース半ば(5月24日)に,グループインタビューをし,それらについてのコメントを収録し分析した。それらの教員が担当していたのは,いずれも上級レベルの日本語学習者のクラスであったが,3人の教員が揃って問題視していたのは,日本人ボランティアが,事前の断わりなく,テレミートの参加を勝手にキャンセルしてしまうことであった。そのため,留学生側も,はじめは興味があったようであるが,次第に興味がなくなってきたようだと報告していた。理想的には,留学生一人ずつに学生をアレンジしたかったが,さまざまな制約や予期せぬ事態から実施が困難になる場合もあった。また,それぞれの教員は,テレミートでなければできないアクティビティをデザインすることに,当初戸惑っていたようであった。近くのキャンパス同士であるため,不自然さは歪めなかったが,日本語学習者に,どうしてもしなければならないアクティビティであると,納得させるのに苦労したところもあったようである。また,ボランティアの学生には,スクリーンによる接触だけではなく,実際にクラスにも来てもらいたかったという意見も出された。さらに,日本語学習者のテレミートは,コンピュータールームの一部を使って行っているので,対話中の声が,他の学生に迷惑をかけていたのではないかと危惧していた。これも将来検討していくべき課題であろう。それ以外の教師からの観察では,全般的に,上級レベルの学生からの評判はよく,学生主導で進んでいたようであった。また,上級レベルほど,発話量が多かったという感想もあった。今後のアクティビティとしては,グループ同士の会話や,海外の提携校とのテレビ会議なども行ってみたいという意見が出された。

今回のグループインタビューの中で,積極的な意見交換がなされなかった課題として評価の問題がある。テレミートが,日本語教育のコースの一部としてデザインされるならば,当然評価の問題を無視することはできない。接触場面で起きた,インターアクション問題の処理能力が,テレミートによってどのように習得できるかという面から考察していくべきであろう。今後の課題として,あらゆる日本語能力レベルの学習者を対象にした,縦断的実証研究をデザインする必要がある。

7. 今後のテレミートの応用

以上,早稲田大学で行われた,パソコンテレビ会議システムを使った,1対1のネットミーティングの日本語教育への応用についての実験報告を行った。キャンパス内の情報環境整備が整えば,これからは,こうしたテレミートが遠隔地教育のために,積極的に応用されるだろう。また,国内だけではなく,海外,とくに時差の問題があまり発生しない国々を中心として,テレミートを使ったインターアクションが盛んになってくるだろう。残念ながら,現在は,環境整備や通信などに費用がかかる現状であるが,導入された初期から比べると大きくコストダウンがはかられている。しかし,技術的には,学内に配置したテレミートに多地点制御装置 (LANMCU) を付加することにより,大学内(他大学・外部施設・先生の自宅等)にある通常のISDN型テレミートに接続可能な段階まで進んでいる。将来こうした問題がクリアされ,さらに大量のデータを高速で処理できる光ケーブルが敷設されれば,映像と音声を利用した対話学習としてのネットミーティングはさらに一般化するのではないかと考えられる。現在,早稲田大学では,こうしたテレミートを利用して,海外の大学と連携してネットワーク型共同ゼミナール (CCDL: Cross-Cultural Distance Learning) を行っている。これは,主に,現在英語教育に関する試みが中心であるが,日本語教育に関して言えば,現時点で以下のような利用方法が考えられる。

海外の日本語学習者のための,ジャパンリテラシー教育

海外で,社会文化能力の習得を目指した日本事情(ジャパンリテラシー)を教える場合,現地の日本語教師が,日本側の日本語教師(または,あるトピックに明るい日本人)とチームティーチングを行いながら,コースをデザインするのが理想的であろう。その場合,日本側の日本語教師はリソースや情報の提供者になる。また,双方の日本語学習者同士が授業の一環として,共通のテーマを合同で調査研究することなども可能であろう。その場合,共通語はもちろん日本語になる。

ビジターセッション,ゲストスピーカーセッションとしての利用

海外での日本語教育の場合,教室内でのネーティブスピーカーとのインターアクション場面が設定しにくく,ビジターセッション,ゲストスピーカーセッションなどのアクティビティがデザインしにくいという問題が起こる。そうしたコースデザイン面でのハンディキャップを埋めるために,日本からネーティブスピーカーが参加するテレミートセッションを利用した方法が考えられる。

日本に留学する学生のための出発前準備教育

日本に留学する学生にとって,出発前準備教育は必要不可欠なプロセスである。その場合,必要な情報が十分に提供されるかどうかは,学生にとって日本で起きると思われる問題を事前に処理する上で重要である。こうした情報を処理するために,受け入れ大学や高校の関係者と,テレミートを使ったオリエンテーションが役立つと思われる。

大学院レベルでの研究や論文指導

将来,日本をはじめ,海外でも,いくつかの分野の大学院課程が,遠隔地教育によって行われる時期が来ると予想できる。その場合,大学院生の研究指導や論文の指導も,1対1の対面式ではなく,遠隔地から行われる可能性があるが,テレミートは有効なコミュニケーション手段となりうる。現在,技術的には,多地点会議用サーバ(MCU)を応用し,多地点での同時TV会議を実現することができるが,これによって,海外と日本を3カ所以上つないだ,ネットワーク型研究指導が可能になる。

海外の日本語教師のためのインサービス・トレーニング

海外で日本語教育に従事している教師のうち,とくに非母語話者は,程度の差こそあれ日本語の習得や維持,日本語教授法のワークショップなどの機会が限られている。そうした教師のための日本語教育及び日本語教授法講座の開設は,今後重要な課題となってくるだろう。条件が限られる海外では,なかなか実現がむずかしいと思われるが,現地でデザインされにくいならば,日本からテレミートによる遠隔地教育が可能かもしれない。

各国の日本語教育事情の情報交換

これからの日本語教育を考えた場合,理論,実践両面で,日本が先進的な情報発信国であり続ける必要はない。むしろ,そうした時代は徐々に終焉を迎えるであろう。とくに外国語としての日本語教育を考える場合,海外で積極的に日本語教育を行っている国や地域が,日本を含めた他の地域に情報を発信していかなければならない。そうした各国の日本語教育事情の情報交換がこれからの日本語教育を活性化していくと予想できる。その場合,論文や報告などの文字による情報交換だけではなく,テレミートのような音声や映像によるインターアクションも効果的な手段になるだろう。

学会,セミナー,ワークショップ,パネルディスカッションへの参加

筆者は,1999年11月に,オーストラリアにある,セントラル・クィーンズランド大学で開かれた,オーストラリア日本研究学会(JSAA)のワークショップ(「21世紀に向けたオーストラリアの日本語教育」)に,早稲田大学からテレミートを使って参加した。今後は,こうしたサイバー・セミナーのような形式の学会参加が増えるのではないかと予想される。日本語教育研究の情報交換のためにも,いろいろな参加形態を模索すべきであろう。

8. 結語

以上,早稲田大学で行われたテレミートの試みと,そのコースの参加者による,フィードバックを分析した。分析の結果,日本語学習者が,ネーティブスピーカーと自由にコミュニケーションできる学習環境が提供され,さらに自律学習能力の発達を促す可能性があることが明らかになった。今後,情報環境整備が整い,技術面での向上が見られれば,対話学習としてのネットミーティングの可能性は確実に広がると思われる。7. 今後のテレミートの応用でも,述べたように,日本語教育でのテレミートの具体的な応用として,1. 海外の日本語学習者のための,ジャパンリテラシー教育,2. ビジターセッション,ゲストスピーカーセッションとしての利用,3. 日本に留学する学生のための出発前準備教育,4. 大学院レベルでの研究や論文指導,5. 海外の非母語話者日本語教師のインサービス・トレーニング,6. 各国の日本語教育事情の情報交換,7. 学会,セミナー,ワークショップ,パネルディスカッションへの参加などが考えられる。技術革新がさらに進めば,これ以外の双方向性のインターアクションが可能になるであろう。そのためにも,実験的なコースをデザインし,参加者からのフィードバックをもとに改良していく必要がある。

参考文献

  • Butler, M. and Fawkes, S. 1999 "Videoconferencing for language learners", Language Learning Journal, 19(June), pp.46-9
  • 松岡一郎 2000 『早稲田大学デジタル革命』 東京:アルク
  • 早稲田大学文学部情報化検討委員会編 1999 『キャンパス情報化最前線』 早大出版部
  • 早稲田大学メディアネットワークセンター電脳空間を活用した外国語教育に関する研究部会 2000 『1999年度後期チュートリアル英語学習実験プログラ 実施結果報告書』
  • 文学部情報化検討委員会編 1999 『キャンパス情報化最前線』 早大出版部
  • Wright, N. and Whitehead, M. 1998 "Video-conferencing and GCSE oral practice", Language Learning Journal, 18(December), pp.47-9

このテレミートを使った日本語教育については,早稲田大学メディアネットワークセンターをはじめ,パナソニック・エンジニアリングから協力を受けた。紙面で感謝する次第である。