淡江大とのテレミート実験報告

日時11月8日 13:10-14:05
場所早稲田大学 24-2号館
出席者【早稲田大学側】教員7名,大学院生15名(表現教育実践クラス8名・他7名),スタッフ3名
【淡江大学側】淡江大学日本語文学系主任・日本研究所所長 劉長輝先生,淡江大学日本語文学系 藤井彰二先生,学部生及び大学院生約45名(学部生4年生中心の日本語教授法クラス)

目的

今回の実験の目的は,主に新しいメディア(ビデオ会議システムーテレミート)を利用して,台湾の淡江大学と早稲田大学大学院日本語教育研究科の間に,インターアクションの機会を提供することである。早稲田大学側には,台湾の日本語教育の現状を把握したいという目的がある。淡江大学側には,当日の講義内容である聴解教育のあり方について意見交換したいという目的がある。

実施までの経緯

実施に当たり,早稲田大学の宮崎里司(早稲田大学大学院日本語教育研究科助教授)と淡江大学の藤井彰二先生(交流協会日本語中心日本語普及専門家)はメール及び電話で打ち合わせをして,実施時間,トピックなどについて何度も意見交換を行った。更に,淡江大学側の要求に合わせて,早稲田大学側は表現教育実践研究(2)のクラスでもトピックなどについて検討した。実施時間については,淡江大学の日本語教授法クラスの都合から,現地(台湾)時間13時10分から50-60分程度と設定した。

テレミートの経過/トピック

淡江大学のトピック(講義形式・約45名)

当日の講義内容――聴解教育

聴解というと,すぐに音声を繰り返し聞かせたり,学生が聞き取れない場合には,テープレコーダーの音量をあげたり,ゆっくり発音して聴かせることを考えがちである。しかし,地下鉄などの騒音の中でも会話が可能なように,日々我々は常識や経験などの音声以外の様々な要素を活用して会話を成立させている。つまり聴解は一般に受け身の技能だと考えられがちであるが,実際にはかなり能動的な作業である。我々の聴解行動には,一言も逃さないように注意して聞いたり,音声情報の中から必要な情報を選択的に聞き取ったり,全体の発話の要旨を正しく理解したり,というようにいろいろな種類がある。つまり,聴解教育の目標としては,それぞれの聴解の目的に応じて必要な聞き取りができることだと言える」――上記の内容で話を発展していきたいと思います。――藤井彰二先生

早稲田大学のトピック(表現教育実践研究クラス・8名)

  • 台湾の日本語教育の状況を把握する。
  • 日本語教育研究の情報交換。
  • 今後日本語教育におけるビデオ会議システムの応用と将来性を検討する。

実施の手順

藤井先生の講義

  • 能力試験から見られた台湾学習者の問題
  • 台湾の日本語学習環境
  • 台湾の日本語教育の現状
  • 能動的な聴解教育
  • 聴解教育の目標とは

学生の間のインターアクション

早稲田大学側
  • 教室以外にはどんな時日本語環境があるのか。
  • どんな聴解の練習をしたいのか。
  • 淡江大学でどんな聴解の授業をやっているのか。
  • 韓国・北京の大学の聴解授業の紹介(留学生より)
淡江大学側
  • 台湾の日本語環境の紹介(ケーブルテレビの日本語番組,日本人留学生との交流)
  • 個人の聴解練習法の紹介
  • 淡江大学の聴解授業の紹介

早稲田大学教員からのコメント

  • 川口義一
  • 吉岡英幸

Q and A

質問――早稲田大学側から

台湾ではケーブル・テレビ,日本留学生の多さなど,日本語に接する機会がわりと多いと聞いたが,それではその中で特にどのような日本語を聞きたいのか。また,どのような場面で聞いた日本語が大学の日本語のクラスでは教えられていない日本語であったのか教えてほしい。

ケーブルテレビが4チャンネルあるなど,台湾の日本語環境はかなり恵まれているそうだが,教室外で学生たちは実際にどの程度日本語に接する機会があるのかについて質問した。

答え ー 淡江大学から

ケーブルテレビは月2千円ほどで見られるのでかなり各家庭に普及しているが,日本のドラマは字幕が出るのでそれに頼ってしまうこともある。また,台湾には日本人の留学生も多く,話そうと思えばチャンスはかなりある。

感想/問題点

早稲田大学側

音声,画像等想像していたよりもよかった。あれならば実際の場面で使っていけるという感触を得た。今日は初日でこわごわ発言したが,声がぶつかるほど話をするとどうなるか。どのくらいの頻度で出来るのか。とにかく海外の現場にとっては大きな可能性をもったものであることはわかった。イベントにならないように,続けてほしいが,今度はもう少し小人数でやってみたい。

最初は,大画面にあちらの様子が映っていて,「台湾とつながっているんだ」と思い興奮した。しかし,実際の学生とのインターアクションはほとんどなく,ながめているだけで終わってしまったので,残念だった。時間は限られていたので,できれば,藤井先生の講義は事前にすませておいていただいて,1時間は学生を主役にしてもらいたかった。「お祭り」にならないように,固めのテーマが選ばれたのだと思うが,結果的に,大学院生や留学歴のある学生しか答えられないような内容になってしまったので,それならむしろ柔らかめの話題で,多少話すのが苦手な学生でも参加できるようにしたほうがよかったのではないかと感じた。

はじめて参加したテレミートだったのでとても緊張したけれども,1時間がとても短く感じられるほど得るものの多い時間であった。今までは留学生のテレミートをサポートするだけで,自分が実際にテレミートをしたことがなかったのでとても新鮮に思えた。聴解教育に対する淡江大学の教授の話もおもしろかったし,川口先生のコメントもよかった。なによりもこういう経験ができただけでとても貴重なことと思う。私は今まで,聴解教育に対して軽視してた部分もあるのでとても勉強になった。疑問としては,「(淡江大学の学生,教師のなかで)どれくらいの人が聴解を能動的な作業としてとらえているのか(認識しているのか)」,また,「すばらしい台湾の日本語環境をどのくらい教室(内)活動のなかで活用しているのか」,知りたかった。音声も画像もとくに気になる問題点はなかった。これからはテレミートで遠隔教育も充分可能だなぁとしみじみと感じてしまった。

マイクの問題だとは思うが,淡江大学の学生の声が少し聞きづらかった。1時間しかないので,講義形式であったのは少し残念な気がする。気づいたら時間になっていた。藤井先生ではなく,学生が話す機会が多ければ,もっと良かったかもしれない。急にふられた福島さん,原田さんら早稲田の学生が,きちんとコメントを述べていたので,感服した。向こうの学生が,どれだけ内容を理解したかが知りたい。また,このビデオ会議に対する感想も聞きたい。

初めてのテレミートだったが,face to face の様な感じでほとんど違和感なく話が出来たのは,素晴らしいと思った。ただ1時間という限られた時間なので,もう少しお互いにインターアクションが出来たらもっと良かったと感じた。ただ,実際に学生たちがどの程度教室以外の場所で日本語を見聞きしたり,使用したりしているのかその実体をもう少し詳しく聞きたかったと思う。

初めてテレミートというものを体験したが,思っていたより映像も鮮明だったし,音声もずれがなく,あまり違和感はなかった。教室対教室でなかったので(こちらは教室,あちらは講堂),こちらが感じる距離感とむこうが感じる距離感はずいぶん違ったのではないかと思う。もっと学生と直接話せるのかと思っていたが,藤井先生を通しての会話となり,せっかくの機会がもったいなかった。あちらの学生はどう受け取ったのか気になる。事前のお互いの情報交換が少なかったと思う。藤井先生の話しぶりだと,聴解教育についての先生方の意見を聞きたかったようにも思えるし,こちらの質問に対する答えも焦点がずれていたり,こちらの意見もあまり反映されていなかったように感じたり,どこか噛み合わない印象を受けた。淡江とは初めてだったから仕方ないのか。今後,多地点でテレミートをする場合,どこかがリーダーシップをとってしっかり司会進行をしないと収集がつかなくなって難しいかもしれないと思った。私は今回,質問をしなかったが,あの状況で指名されたら緊張してしまうだろう。私の場合は,まずテレミートに慣れる必要があるのかもしれない。母語話者の自分がそうなら,相手側はもっと緊張するだろう。その配慮も必要だと思った。

はじめて参加したテレミートだったのでとても興奮した。音声と画像は想像よりずっとよかった。テレミートについて何かをやりたいという気持ちは一層強かった。ただし,台湾の学生とのインターアクションが少なかったと思う。相手側は講義形式のせいか,それとも学生たちは自分の語学能力にこだわりすぎたのか。テレミートの時日本語をコミュニケーションのための道具として位置づけ,イベントにならないように,今後共通のテーマを掲げて合同で日本語を使った学習研究を進めて欲しい。こうした新しいメディアがインターアクションのための日本語教育に大きな可能性を持っていることが分かった。これから多地点の実験を通じて,「バーチャル・ユニバーシティ」の日本語教育を目指したい。とにかくインパクトの強い授業だった。

淡江大学側

  • 音声・映像ともクリアで,距離を感じさせない。
  • 日本の一流の大学(しかも大学院)とともに授業が受けられたことを誇りに思う。これからも定期的に,早稲田の先生たちの授業を受けたい。
  • 早稲田大学の教室全体の様子が見られれば良かった。
  • 淡江大の学生と早稲田大学の学生との年齢の差が大きく,驚いた(大学院生に社会人が多いことに驚いた)。
  • 自分たちの日本語能力が十分でないので,聞き取れない所もあった。また,日本語能力が十分でないため,意見を言いたかったが,遠慮してしまった。
  • 初めての経験で緊張した。
  • 時間が1時間だけで,残念だった。
  • 早稲田の大学院の先生方が勢揃いしていたことにびっくりした。

参考

淡江時報「早稲田大学との遠隔教育に関する提携」