年少者日本語教育研究フォーラム 第1回

ポスター「関東:年少者日本語教育研究フォーラム」

2010年2月15日,早稲田大学で「第一回 関東・年少者日本語教育研究フォーラム」が開催されました。

特別企画「年少者日本語教育の実践とは何か」左より,齋藤ひろみ,池上摩希子,川上郁雄の3氏朝10時より,9本の研究発表と特別企画があり,約80名の参加者がさまざまなテーマについて意見交流をしました。その中であがったキーワードは,

など。

国内,国外の年少者の実践研究が確実に広がっていることが実感されるフォーラムでした。(写真:特別企画「年少者日本語教育の実践とは何か」。左より,齋藤ひろみ,池上摩希子,川上郁雄の3氏)

プログラム

第1部「子どもの母語/母語の子ども」の視点から実践を捉え直す
司会: 唐木澤みどり(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
10:10~10:05「ようこそ!!」
川上郁雄(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
10:05~10:25「バイリンガル教員による母語を使用した指導」
フルゲン・マリア・クラウディア(東京学芸大学)
【概要】 東京近郊の小学校の国際教室で,バイリンガル教員が母語をどのように利用して学習指導を行っているのかを観察した。バイリンガル教員が母語へ切り替える場面とその機能に着目し,観察の記録と会話の録音を分析した。その結果,バイリンガル教員は,学習内容を説明する,指示を出す,学習内容の理解を確認するため,つまり学習促進のために母語を利用していた。その他,生活や学習態度などについての指導時に,母語に切り替えを行う様子が見られた。
10:25~10:45「「移動する子ども」だった私から年少者日本語教育実践を捉え直す ― 自分にとって意味のあることばの学びを目指して」
宮川愛梨(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 2008年6月から2009年3月まで,中学3年生の生徒Hに対する日本語教育実践を行った。その中で実践者である私が生徒Hとどのように実践をデザインし,生徒Hと同じ「移動する子ども」として自分にとって意味のあることばの学びを生み出そうとしたかを振り返る。そして,私が気づき,学んだ,言語教育実践者として「母語話者」への言説から脱却することと「自分にとって意味のある学び」を生み出す視点をもつ必要性を論じる。
10:45~11:15質疑応答・議論
11:20~11:40「ことばの力」が育つ原動力 ― インターネット上の教室から
野口ひとみ(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 「移動する子どもたち」が主体的に日本語学習に臨む原動力は何か。本発表は,約1年半に及ぶ遠隔日本語教育実践を分析した「実践研究」発表である。尚,本発表は修士論文「実践者と子どもの関係の中で育む『ことばの力』 ― 遠隔日本語教育実践を通して」から一部抜粋して発表する。
11:40~12:00親とボランティアが創る継承日本語教室の「意義」と「可能性」 ― タイの教室に参加してきた経験から
深澤伸子(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 今,日本国外の継承日本語教育は子どもの多様化に苦慮し,新たな学習の再編成が模索されている。しかし子どもにとっての学習の意義を問わないまま,関心は日本語の習得に集中している。本研究では日本国外で育つ子どもにとって日本語教育が目指すべきものは何か問い直し,そこから起こったタイの継承日本語教室の新たな実践について述べる。この実践の考察から日本国外の子どもの日本語教育現場が立ち向かうべき課題を示し,親が中心となってボランティアと共に創る継承日本語教室だからこそある「意義」と「可能性」を明らかにする。
第2部:海の向こうの「移動する子どもたち」の実践のひろがり
【司会】太田裕子(早稲田大学留学センター)
12:00~12:30質疑応答・議論
特別企画
【司会】齋藤ひろみ(東京学芸大学)
13:20~13:50年少者日本語教育の実践とは何か ― 実践と内省,そして発表することの意味を考える
池上摩希子 vs 川上郁雄(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 子どもたちへの実践って,何か。迷いと失敗,反省,無力感,考えることと語ること,それはどんな意味があるのだろう。そんなことを池上と川上が互いに激しく,熱く語る。食後にはよくない話?
13:55~14:15JSLの子どもとボランティアの協働的学びについて ― ボランティア自身の変容に注目して
西原明子(東京女子大学大学院)
【概要】 JSLの子ども対象の地域の日本語教室における,ボランティアの変容と子どもの学びの変化を報告する。算数の学習で,子どもができることとできないことを詳細に書き出すことにより,数字を記号として捉えているだけで,意味の理解につながっていないことに気づいた。本発表では,ボランティアが当たり前と思っていたことが,子どもにとって当たり前ではないと気づくことにより,子どもとの協働的学びを促すことになった過程を追う。
14:15~14:35日本語教育は子どもの日本滞在・日本語学習をどのように意味づけられるか
井口翔子(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 本発表は,短期滞在のJSL中学生に対する約10か月間の日本語支援をもとにした実践研究である。実践を通して捉えた子どもの実態から,発表者は子どもが日本滞在や日本語学習を意味づけられるための支援が日本語教育に必要だと考えた。本発表では,発表者がどのようにこの課題を捉え,また,課題解決のためにどのように実践をデザインし,それによって子どもと発表者自身にどのような気づきがもたらされたのかを考察する。
14:35~14:55実践のプロセスを子ども・学校と共有する ― 「ポートフォリオ」を活用した実践を通した実践者の気づきから
浅井涼子(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 年少者日本語教育実践者には,子どもが主体的に取り組める学習環境をつくると同時に,実践や子どもについて学校など第三者に発信していくことが求められる。本発表ではこのような力をどう育むか,どう発揮するか議論したい。そのために,「ポートフォリオ」を「学習・支援のプロセスを可視化する媒介物」と捉え,「ポートフォリオ」を活用したJSL中学生に対する実践における子どもや学校とのやりとりと,そこから得た発表者の気づきを報告する。
第3部 実践者の学びから実践はどう変化するのか
【司会】尾関史(早稲田大学日本語教育研究センター)
14:55~15:35質疑応答・議論
第4部 JSLの子どもの学びを支える実践と教育支援とは
【司会】飯野令子(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
15:45~16:05二つの文化をつなぐ外国人児童のための歴史授業 ― 「鑑真物語」のミニ授業から
南浦涼介(広島大学大学院)
【概要】 小学校段階の歴史授業は日本中心の人物学習である。そのため,外国人児童にとっては,たとえ言語的に内容を理解できても,学習の内容に意味を見出しにくい。発表では,外国人児童のための歴史学習をデザインしていけばよいのかを問題とし,実施したミニ授業から見えたことを報告したい。具体的に行ったのは,中国人児童を対象に実施した,中国から日本へ渡った鑑真の葛藤とその解決を描いた紙芝居によるミニ授業である。
16:05~16:25JSL児童の「読み書き」への参加を支援する ― 来日3年目の児童への日本語支援実践から
唐木澤みどり(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 小学校における日本語支援では,教科学習への参加も視野に入れた支援の重要性が指摘されている。しかし,そのために必要な日本語の「読み書き」に関しては,JSL児童にとって困難な場合も多い。本発表では,来日3年目となる小学校4年生の女児への日本語支援実践を報告する。「読み書き」への参加が困難な要因を分析し,特に「書くこと」に対する負担感を軽減することで「読み書き」への参加を支援し,「読み書き」の経験を豊かにしていくことの必要性を指摘する。
16:25~16:45<ことばの課題への意識化>を促す ― 三重県鈴鹿市日本語教育コーディネーターの事例分析を通して見えたこと
川上さくら(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
【概要】 教育委員会に設置されたコーディネーターは学校現場に対して<ことばの課題への意識化>を促す働きかけを行っている。コーディネーターの役割を検討する中で,見えてきたことである。年少者日本語教育の課題を乗り越えていくためには,この<ことばの課題への意識化>を促す姿勢が重要である。コーディネーターという役職には期待が寄せられているが,設置目的を考えると,日本語指導に関わる一人一人ができることもあるのではないか。
16:45~17:25質疑応答・議論
17:25~17:30「また会いましょう!」
池上摩希子(早稲田大学大学院日本語教育研究科)