早稲田大学日本語教育研究科 2002年度メルボルン研修報告書
- 概要
- モナシュ大学日本語学科・日本語授業見学報告
- 大学および日本語教育コースの概要
- レベルCの授業見学
- レベルDの授業見学
- Enhancementの授業見学
- 日英翻訳講義の授業見学
- マリオット教授のResearch Methodology in Applied Linguistics講義報告
- 宮崎助教授の講演報告
- 早稲田大学- モナシュ大学の院生によるJoint-Presentation報告
- メルボルン大学日本言語研究科見学報告
- ハンティンデール小学校・イマージョンプログラム見学報告
- MLC見学報告
- ヴィクトリア州教育省訪問報告
- メルボルン国際日本語学級見学報告
概要
日程 | 2002年3月12日~26日 |
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場所 | オーストラリア・メルボルン |
担当教員 | 宮崎里司助教授 |
参加者 | 遠藤知佐,田中敦子,津花知子,原田明子,春口淳一,宮崎七湖,森口祐子(以上宮崎研究室),船山久美(吉岡研究室),福島青史(川口研究室) |
- 12 火
- 出発12:00 シンガポール 18:20/20:50
- 13 水
- メルボルン 到着 7:00 自由行動
- 14 木
- オリエンテーション,施設見学(日本研究センター,中央図書館,ユニオン)
- モナシュ大学文学部URL http://www.arts.monash.edu.au/
- 15 金
- Ms Jacqui Brown(MLC高校日本語教師)
- MLC中高見学 9:30am MLC URL http://www.mlc.vic.edu.au/ 田中・津花・春口・原田・船山・福島・森口
- マリオット教授のクラス参観,日本語クラス参観 (クレイトンキャンパス) 原田・船山・遠藤
- JLTAVメンバーとの懇談(トピック:オーストラリアでの中等レベルでの日本語教育事情,VCE Japanese,日本語教師就職事情など)JLTAV URL http://www.jltav.org.au/
- 16 土
- (午前)メルボルン日本語国際学校参観(オプショナル)田中・津花・春口・船山
- (午後)自由行動
- 17 日
- 自由行動(夕方ペンギンツアー)http://www.penguins.org.au/
- 18 月
- 日本語クラス見学 (クレイトンキャンパス)
- ハンティングデール小学校での日本語イマージョン・プログラム参観(オプショナル)
- ハンティングデール小学校URL http://www.huntingdaleps.vic.edu.au/ 福島・津花・田中
- 19 火
- 日本語クラス参観 (クレイトンキャンパス)
- ハンティングデール小学校での日本語イマージョン・プログラム参観(オプショナル)宮崎・船山・森口
- 20 水
- 日本語クラス参観 (クレイトンキャンパス)
- ハンティングデール小学校での日本語イマージョン・プログラム参観(オプショナル)原田・春口・遠藤
- ヴィクトリア州教育省訪問(オプショナル)船山・森口 URL http://www.bsw.vic.edu.au/
- 21 木
- メルボルン大学アジア言語社会学科,日本語クラス参観(オプショナル)田中・津花・原田・春口・船山・森口
- URL: http://www.asian.unimelb.edu.au/ 1:00コンピュータークラス参観(関口)
- 担当教員:町田左由紀,久保田満里子,関口幸子 福島(帰国)
- 22 金
- 日本研究科セミナー(ゲストスピーカー・セッション)
- 宮崎里司:外国人力士と日本語習得及び言語管理
- モナシュ大学日本研究科大学院生とのMA joint presentation(田中,津花,原田,春口,森口)遠藤・宮崎(七湖)・船山帰国
- マリオット教授のクラス参観,日本語クラス参観 (クレイトンキャンパス) 田中・津花・森口
- 23 土
- 自由行動
- 24 日
- 自由行動 森口帰国
- 25 月
- 自由行動 出発 17:20
- シンガポール 21:45/23:15(田中,津花,原田,春口)
- 26 火
- 成田到着 6:35
モナシュ大学日本語科・日本語授業見学報告
記録者:田中敦子
モナシュ大学クレイトンキャンパスについて
モナシュ大学は40年前に設立され,学生数は現在42,000人,オーストラリアのメルボルンに6つ,マレーシア,南アフリカに各1つずつキャンパスを持つ。今回私達が見学したクレイトンキャンパスには人文,経済,教育,情報科学,工学,法学,医学,科学の8つの学部が設置され,20,000人の学生が世界中から集まっており,モナシュ大学の中では最も古く大きいキャンパスである。(詳しくは, http://www.monash.edu/参照)
1.クレイトンキャンパス内見学
日程 | 2002年3月14日(木) |
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場所 | モナシュ大学クレイトンキャンパス |
参加者 | 遠藤知佐・ 田中敦子・津花知子・原田明子・春口淳一・福島青史・船山久美・森口祐子 |
図書館
モナシュ大学関係者以外でも入館は自由で,アジアに関する蔵書は地下1階にある。日本語の文献は他のアジア言語と比べて最も充実しており,雑誌,マンガのほかに,文字用パネルや絵カードなどの教材も数多く取り揃えられている。他言語の蔵書としては韓国,中国,インドネシア,ベトナム,タイなどがある。
日本語センター(Japanese Studies Centre)
1981年にヴィクトリア州にある5つの大学により設立され,1989年よりモナシュ大学のMonash Asia Instituteとなった。主な活動として,研究会や講演,日本語講習の企画,日本語研究論文の発行,日本文化に関わる行事(琴や尺八の講習など),またthe Australia Japan Societyや the Japan Club of Victoria,the Melbourne Centre for Japanese Language Educationなどに場所を提供したり,連携した活動などがある。建物の外観は日本家屋風で,5年前には日本庭園も造園された。今回,日本語センターで様々なプログラムのコーディネイトをされている小川京子さんに案内,説明していただいた。
2.モナシュ大学での日本語の授業(School of languages, cultures and linguistics)
レベルは基本的に4段階(Beginners, Intermediate, Advanced Intermediate & Advanced)で,下からA~Fクラスに分けられている。A~Dクラスまでは言語形式に重点を置き,E,Fクラスは言語内容に力を入れた授業が行われている。クラスは学生が20人前後,専任の先生のほかに,モナシュ大の大学院生が授業運営を手伝っている。
レベルCの授業見学
日時 | 2002年3月14日(木)14:00~16:00 |
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場所 | モナシュ大学クレイトンキャンパス S506教室 |
参加者 | 田中敦子・津花知子・原田明子・春口淳一・船山久美 |
学生 | Cクラス(23人) |
【授業の流れ】
大学院生の萩野先生の授業を見学。「海外に住む日本人」というトピックで,OHPを使いながら語彙導入,数字の復習をした後,会話練習へ展開していった。テキストはモナシュ大学のオリジナルのものを使用しているが,6年前に作られたのでデ――タが古くて使えないため,トピックだけ取り上げているということである。会話練習はペアで行われ,そこに私達も参加した。
10分間の休憩後,トピックは「日本人との交流について」に移り,自分達が今までどのような形で日本人と接した経験があるかをペア,グループで話し合い,その後,VTRを使って,内容把握,理解のタスクを与えていた。この授業の目的はネットワーク作りの意識化であろうと思われた。
【見学見学後の感想】
1クラスの人数が多く,あまり会話ができない学生もいれば,結構話せる学生もいて,クラスのレベルに統一感が感じられなかった。教師の話すスピードは自然な速さだが,語彙などは英語に置き換えて説明していたので,最後の手段に母語を媒介語として使えることは教師にとってはやりやすいと思うし,学生もストレスがたまらなくていいと思う。大学オリジナルのテキストだけでなく,テキストに合わせたビデオもあったので,効果的に使えていたのではないかと思う。(田中)
テーマは「オーストラリアに住む日本人」で,メルボルンにある日本人ネットワークを紹介するなど,社会的ストラテジーに配慮された授業だと思った。 10分ほど学生と話し合う機会があり,はりきって入っていったが,学生は思ったほど話してくれず,残念だった。よく「日本人はシャイだ」などと言うが,オーストラリア人だってそうなのでは?と思った。しかし,よく考えてみれば「○○人」の問題ではなく,自信のない外国語で話す時は誰でも内気になってしまうのかなと思った。(津花)
学生の数が多いのに驚いた。また,レベルにもかなり開きがあり,こちらの問いかけにほとんど答えられない学生もいたので,授業を進めていく教師は大変だろうと感じた。メルボルンにおける日本人社会の情報は,授業で取り上げるに値すると思った。(原田)
授業内容は大変興味深いものであった。「オーストラリアに住む日本人」は身近な話題ということもあり,学生の関心も高かったように思われる。しかし,直接会話を交わすに当たって学生の参加姿勢が消極的であり,残念であった。(春口)
テキストのあり方について考えてしまった。6年前には最新情報であったものも,情報量が多く,具体的であればあるほど,すぐ使えなくなってしまう。それでも,数字などを入れ替える必要があったが,上手にテキストを利用していらしたと思う。留学経験者もいたが,せっかく習得した日本語もオーストラリアでは忘れる一方ということであった。13週間をかけて,日本人ネットワーク作りを目指すというこの授業はこのようなJFLの学生たちのニーズに応えるという意味で,興味深かった。(船山)
レベルDの授業見学(ビジターセッションその1)
日時 | 2002年3月18日(月) 11:00~12:00,14:00~15:00,18:00~19:00 (3つのクラスの後半1時間に参加) |
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場所 | モナシュ大学クレイトンキャンパス S426教室 |
参加者 | 遠藤知佐・田中敦子・津花知子・原田明子・春口淳一・福島青史・船山久美・宮崎七湖・森口祐子 |
学生 | Dクラス(23人) |
【授業の流れ】
大学院生の西沢先生(11:00,14:00)と木藤先生(18:00)の授業にビジターとして参加。自分の会話を録音,分析するという翌週のプロジェクトのための動機付けが目的。
私が参加した18:00のクラスでは,学生が17人,ビジターの日本人が6人で,初めの20分間は3,4人のグループに分かれてそれぞれ自己紹介をした。その後,クラスで「上手な会話に大切な点」は何かを挙げ(例:あいづち,聞き返す,ターンテイキング,互いに質問するなど)確認した後,いい会話例と悪い会話例のテープを聞いて,どこが違うかを検討した。次にビジターが「友達と趣味の話をする」というトピックで即席に会話をし,それを聞いた上で友人同士の会話の特徴を考えた。残りの20分で,ペアになった学生とビジターがグループになり,与えられたトピックで学生が会話をし,ビジターはそれについてコメントをして,学生はさらにそれを生かした会話を作っていくという作業が続けられた。
【見学見学後の感想】
「一味違った自己紹介」は,ビジターセッションにはぴったりだと思った。それぞれ工夫がしてあって,短時間ではあったが印象に残る紹介になった。つづく,円滑な会話のためのストラテジー学習では,自主作成したテープが使用された。テープ自体は良かったと思うが,何度も繰り返すより,ビジターを活用する方法もあったと思う。非言語行動も含めて,より内容が充実したと思う。(遠藤)
ビジターセッションなのに,ビジターと学生が話す場面が非常に少なく感じた。また学生が作った会話を聞いてコメントするというのも,どう言えばいいのかわかりにくかったので,教師がビジターに何を求めているのかもう少し話し合ってから授業に入れればよかった。会話の授業としては有効なトピックだと思うが,Dクラスには少し難しすぎるのでは,と思った。(田中)
事前に綿密な教案をいただいていたので,立派にビジターが務まるか緊張して入ったが,思っていたよりシンプルな役でほっとした。始め,学生も緊張していたが,少し話して和んできた・・・と思ったら,作業にうつってしまい,ビジターは評価する役になってしまったのが残念だった。 「ビジターセッションを単なるおしゃべりにしたくない」という先生の気持ちはよくわかったが,初対面の学習者の日本語を評価するというのは気がひけた。(実際,マイナス評価をしたら,学生が少し暗い顔になってしまい焦った。)その場で評価を下すのではなく,終わった後にコメントするなど,学生の「話したい」という気持ちのほうを優先したかった。(津花)
会話を円滑に進めていくためのストラテジーについての授業だった。トピックは非常に面白いと思った。ただ,テープを聞かせる回数と時間が長すぎて,学生が多少飽きているようだったので,テープを聞かせる前のブレーンストーミングとテープの聞かせ方にもう少し工夫を持たせるといいのではと感じた。(原田)
テープで聞かせる量・回数が多く,ディスカッションの段階で,初めに聞いたものを学生は忘れてしまっていた。また,同様に関心も薄れてしまっていたように思われる。段取りに配慮した授業展開を行えば,もう少し効果的な利用ができたのではないだろうか。(春口)
ビジターとして参加したが,いろいろな役割を与えられて楽しかった。しかし,事前の説明がないとかなり面食らうということもわかった。例えば,初対面の日本人と普通体で話すタスクを与えられたが,正直言ってきつかった。練習とはいえ自然な文脈でないとビジターでいる価値も半減するように思えた。(福島)
ビジターとして来る日本人に,「何か印象に残る自己紹をする」という宿題があったので,学生の中にはノートにびっしりと原稿を書いてきた人もいた。ここでも留学経験者(欧米系)で話せる学生と,大学から留学してきた(香港などの漢字圏)漢字に強い学生が混じり,四技能に差があることを感じた。学生の人数が7人と多かったので時間が足りなかった。よい会話のポイントについては,テープをきいても言葉で指摘するのが難しく,途中でリタイアしている学生もいたようだ。結局積極的に話しかけてくる学生と多く話すことになってしまったことを反省している。(船山)
学生のレベルにずいぶんばらつきがあるように思った。レベルが高い学生はかなり難しい内容の自己紹介を準備していたが,書いてきたものを読んでしまっている学生が多かったのが少々残念だった。会話のストラテジーを自分で気づかせるための自作の会話テープを作るなどの工夫が素晴らしいと思ったが,テープを2回聞かせている間,学生の集中力が持続していないようだった。(宮崎)
日本(金沢)に行って来たばかりの中国人2人とマレーシア人1人の3人組のグループ担当だったので,日本の話に花が咲き,とても楽しく授業を進めることができました。日本の年越しやお正月や金沢の寒い冬の話などに盛り上がりました。最後には別れが名残惜しい雰囲気になっていたのには驚きました。(森口)
Enhancementの授業見学(ビジターセッションその2)
日時 | 2002年3月23日(土)11:10~12:30 |
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場所 | モナシュ大学クレイトンキャンパス S311/312教室 |
参加者 | 田中敦子・津花知子・原田明子・春口淳一・森口佑子 |
学生 | Enhancementの高校生30人 |
【授業の流れ】
Enhancementというのは通信教育で日本語を勉強している高校3年生の授業で,土曜日にクレイトンキャンパスでワークショップを行っており,大学院生の倉田先生と吉田先生が授業を担当している。今回はビジターセッションによって得た情報を基にレポートを作成するというタスクであった。
学生3,4人に対しビジター1人というグループを作り,学生が準備してきたトピック(日本人の結婚観,日本の高校生活,日本の犯罪,など)についてインタビューするという形式だった。グループのリーダーがビジターに「よろしくお願いします」と挨拶するところから始まり,インタビューはテープ録音し,1つのグループで30分以上話していた。10分休憩の後,違うグループで同じ作業が行われた。
【見学見学後の感想】
両親が日本人,または日本人とのハーフである学生や,日本へ行ったことのある学生が多いせいか,日本語は非常に上手で感心した。また用意してきた質問はとても詳しく調べられていて,日本についての関心が高いことを感じたが,テーマ自体はステレオタイプ的なものばかりで,答える方も一般論の方が喜ばれるのか私個人の話の方がいいのか悩んでしまった。個人的には,今回メルボルンへ来ていろいろ見学した日本語のクラスの中で,最も熱心さを感じる学生達だったと思う。(田中)
今回接したうち,一番積極的でレベルの高い学習者達だった。事前の準備もされていて,グループで何を聞くか決められていたので,スムーズに進み,いろいろ話せて楽しかった。ただ,少し気になったのは,テーマが「日本の高校とオーストラリアの高校の違い」など,短期滞在者には答えにくい質問や,「日本人は○○か」「日本人の何割が○○か」という「人によって違う」としか答えようのない質問が多かったので,もう少し,答えやすい質問だとよかった。(津花)
車で3時間もかかるような遠いところから来ている学生もいて,その熱心さに驚いた。(通信教育の学生だった)日本に留学したことがある学生がほとんどで,日本語もとても上手だった。日本の高校生の生活についてというトピックでたくさん話した。制度的には勿論違いもあるが,高校生の考え方,興味,行動自体は日豪でさほど違いがないように感じた。(原田)
「日本の教師はなぜ援助交際をするのか」など,答えに窮する質問ばかりが用意されていた。学生の多くが滞日経験を持つにもかかわらず,その認識に大きな偏りがみられたことに驚かされた。課題を与える教師の影響力は,小さくないと思われる。(春口)
日本に6ヶ月とか1年とか留学してきた生徒ばかりだったので,日本人と話すことに慣れており,私達とのコミュニケーションもスムーズで楽しい授業でした。日本の高校生の価値観についてのインタビューでしたが,集団類型化して話すことにかなり抵抗を感じました。それに自分が高校生だったのはかなり昔の話なので個人的には乗れない話題でした。(森口)
日英翻訳講義の授業見学
日時 | 2002年3月15日(金)16:00~18:00 |
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場所 | モナシュ大学クレイトンキャンパス |
参加者 | 田中敦子・津花知子・春口淳一 |
学生 | モナシュ大学大学院生 |
【授業の流れ・感想】
プロの翻訳家として第一線で活躍されている滝本先生による翻訳(英文から日本語へ)をテーマとした講義である。
学生は1週間前に配布された英文(情報誌より)の課題をそれぞれ日本語に訳しておき,授業ではそれを基に,一文ずつ丁寧に吟味していく。翻訳としてそれが適当であるのかどうかをプロの視点から見た先生のコメントが加えられるが,他の人が見逃してしまいそうな非常に細かい点まで指摘されるので,実践的な力がついていくだろうと思われる。
今回はマリオット教授のご好意により,見学させていただくこととなった。
講義報告
"Research Methodology in Applied Linguistics"
ヘレン・マリオット教授
日時 | 2002年3月15日(金)午後4:00 - 6:00 |
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場所 | モナシュ大学クレイトンキャンパス |
参加者 | 原田明子・船山久美・遠藤知佐 |
記録者: 遠藤知佐
マリオット教授によるResearch Methodology in Applied Linguisticsは,応用言語学,社会言語学,言語学の分野での研究を行なう大学院生を対象とした科目である。一週間に一回,2時間の講義が13週間に渡って行なわれているが,今回,見学をしたクラスはコースの第2週目にあたった。今期の受講生は10名程度であり,事前に配布された論文を読んでくることと,それらに基づくディスカッションへの参加が求められる。
以下,全体のコース目標を提示した後に,見学当日の講義を報告する。
コース目標
応用言語学・社会言語学・言語学の分野における各研究テーマに対して,それぞれ適したデザインをし,具体的に実施するための研究方法を理解すること。具体的には,以下の6項目が掲げられている。
- an understanding of the value of different research approaches and methodologies.
- an understanding of the various components and stages of research.
- practical experience in designing research projects.
- an introductory knowledge of statistical analysis.
- an ability to present written research reports according to appropriate academic conventions.
- an ability to critically evaluate the research designs, analysis and findings of other researchers.
見学授業内容
トピック-「研究の初期段階に為すべきこと」
研究目的の明確化
*関心がある範囲の大まかなトピックから,研究課題を絞り込み,さらに以下の事項を考慮しながら研究目的を明確化していく。
(1)研究目的とは?
第一に研究する価値があり,第二に答えを出すことが可能でなければならない (by Nunan)
(2)研究目的としてふさわしいものとは?
- 結果が,研究者自身だけでなく,広く利用される可能性を持っていること
- オリジナリティーがあること
- 実行可能な理論的見通しが立てられること
- 倫理に反していないこと
(3)一つの研究で扱える研究目的の数とは?
主たる研究目的,それに順ずる研究目的がそれぞれ,1ないし2程度。
(4)研究目的を明確化するためのsourceとなり得るものとは?
- 先行研究
- 自らの生活や教育現場で得た経験,あるいは,論文を読むことで得た他の研究者の経験
<練習>B. F. Freed 論文(1995. ‘What Makes Us Think that Students who Study Abroad Become Fluent.’ Second Language Acquisition in a Study Abroad.)を読んで,研究課題と目的がどのように書かれているかを確認する。自宅課題として,各自の研究目的を5つ挙げることを課す。
Introductionの中で書くべきこと
- 研究目的を明確に述べる
- 取り上げる研究目的の正当性と重要性を述べる
- 先行研究について述べる
<練習>マリオット教授とFreedの論文(上述同出典)をみて,(1)~(3)の事項がどのように書かれているかを確認する。
研究を具体化するためのガイドライン
- Selection of area of study and topic.
- Title and definition of terms, where applicable.
- Research question.
- Justification and significance of topic.
- Brief review of pertinent literature and introduction of conceptual/theoretical framework..
- Methodology: (a)participants; (b)instrumentation/data collection procedures; (c)data analysis procedures
- Pilot study.
- Anticipated problems and possible solutions.
- Timetable/schedule.
- Bibliography.
信頼性と妥当性(D. Nunan 1992, Research Methods in Language Learning, Cambridge University Press. 14-17ページの定義に基づく。)
- 信頼性
- 「内的/外的信頼性」を備えること。「内的信頼性」-データ収集,分析,解釈に一貫性があることが不可欠。
- 外的信頼性
- 同様の研究を行なった場合,結果の再現性を持っていること。
- 妥当性
- 「内的/外的妥当性」を備えること。
- 内的妥当性
- 結果の解釈が明確にできること。また,実証研究の場合では,結果が,研究意図のもとでデザインした要因以外のものから影響を受けていないこと。
- 外的妥当性
- 研究結果を調査対象者だけでなく,一般化することができること。
*研究方法としては量的/質的方法があるが,それぞれの特徴と注意すべきことを考慮することが必要となる。詳細については,コースの別の機会に扱う。
<参考>マリオット教授の研究分野や他のご担当講座に興味のある方は下記のHPを参照のこと。http://www.arts.monash.edu.au/japanese/staff-marriott.html
授業見学後の感想
論文の書き方の方法論の授業だった。
- どういったことが論文を書くときに大事なのか
- どうすればよい論文になるのか
非常に具体的に,資料をふんだんに使ってわかりやすく教えてくださった。ゆっくりと英語で話してくださり,英語の勉強にもなって一石二鳥。早稲田でもこのような授業があれば,社会人学生や留学生は非常に助かるのではないでしょうか?
早稲田方式の脚注や参考資料なども決めていただけるとうれしい。(船山)
第一回目の講義で,コース中に用いられる主な文献を一冊にまとめたReading Packageが,受講生に配布されていたようだ。そのため,受講生は事前に該当する部分を読んだうえでその日の講義に参加できる。必要な文献を自分で探すことは研究をしていくうえで必須なことであるが,新しい分野で研究を始める場合には,基本となる文献を最初に押さえることができれば,大きな助けになるだろう。また,それらを読み進めながら,講義で理解を深め,そして,自分のテーマに照らし合わせて研究を具体化させていく,ということが一連の流れのようであった。
道に迷うことなく,基本的な研究力が着実に身につく講義であるように思えた。(遠藤)