書評
『日本語教育と日本語学習――学習ストラテジー論にむけて』
評者:坂本 正

1997年1月25日に南山大学で行われた研究セミナー「日本語教育と言語学習ストラテジー」を出発点として本書の構想ができあがった。この分野の研究者が各自の研究を盛り込み,積極的に言語学習ストラテジー研究に取り組んでいる。

本書の構成は,編者のネウストプニーと宮崎,それに伴の3氏による総論の4章,続いて浜田,吉野,横須賀,村岡,伊東,岡崎(眸)各氏による各論,最後に,岡崎(敏雄),斎藤・田中,春原,マリオット,ルービンによる学習ストラテジーへの提言と続き,巻末に宮崎が日本語学習ストラテジー研究のための主な文献を紹介している。

執筆者のほとんどが日本語教育関係者なので,実証的な研究,また考えさせられる論考が多い。総論においてネウストプニーは,社会的,情意,メタ認知,認知,記憶,訂正ストラテジーという,6つの大ストラテジーを紹介し,また,文法能力だけでなく,社会言語能力,社会文化能力をも習得するためのストラテジー研究,また,単独のストラテジーではなく,ストラテジーの連鎖の研究もこれから大いになされるべきであると主張している。伴,宮崎の章では,それぞれ初期の学習ストラテジー研究やその歴史,そして,最近の研究動向が解説されているが,特に,著書,論文だけでなく,各地で行われている学会,研究会などの報告もあるのはうれしい。第4章は,学習ストラテジーの研究方法論が解説されており,これからこの分野で研究を行う者にとって大変ありがたい章である。各論では,マクロストラテジーの重要性,文法・語彙・漢字習得や読解に関するストラテジー,学習スタイルと学習ストラテジー,言語学習についての確信について,最近の研究が報告されている。

各論に続いて,海外留学生の勉学ストラテジーの使用(マリオット),学習ストラテジーの使用を促進するような教授ストラテジー(ルービン)に関する提言が続いているが,言語習得上,学習ストラテジーをこれまでのように肯定的に捉えた研究に対して,より大きな視点から,岡崎(敏雄)は社会的コンテクストで捉えるグループストラテジー研究の必要性を説き,斎藤・田中は所与のシステムから自らを守り対抗していく弱者・自己解放のストラテジーを,また,春原は賢い不服従のストラテジーを学習者が持つことが必要であると主張し,これまでの学習ストラテジー研究を批判的な観点から見直しており,全体としてバランスのとれた好著と言えよう。

何個所かの誤植や学習ストラテジーという用語の不統一以外に,気になった点を2,3挙げよう。第二言語習得研究の枠組みの中に学習ストラテジーを組み込んでいて,随所にインプットとのかかわりが強調されているが,アウトプットとのかかわりももっと言及してほしい。また,学習ストラテジー習得上の効果の有無が,執筆者によって見解が分かれている。構成の面では,マリオットとルービンの章は岡崎(敏雄)の前に置くほうが全体の流れとして読みやすかろう。

本書は学習ストラテジー入門を主な目標としていると書かれているが,この分野の研究者にもぜひ薦めたい一冊である。

評者:坂本 正(さかもとただし)
南山大学教授。
専門は,日本語教育,第二言語習得研究。
著書に「学習者の発想による日本語表現文型例文集」(凡人社),「速読用の文化エピソード」(凡人社・共著),「日本語教育:異文化の懸け橋」(アルク・共編)などがある。