2003年4月入学(5期生)
福井貴代美
研究内容:日本語学習者に対する韻律指導――複合語・句のアクセントを中心に
日本語教育の現場における音声指導の遅れが指摘されている。谷口(1991)のアンケート調査の結果からも,体系的・計画的指導はなされていないことがうかがえる。高い日本語能力を持ちながらも,その発音に問題の残る学習者は多い。そんな中,現場の教師も音声指導の必要性を感じていることは確かだ。しかし,カリキュラム上,音声指導は後回しにされてしまうのが実情であり,その指導法も確立されているとは言えない。そして,学習者側からは,音声指導に対する要望の声が多く聞かれるという現状がある。戸田(2001)のニーズ調査の結果にも「自己の発音に正確さ・自然さを求めている学生が多い」との記述があり,学習者のニーズが高いことがわかる。
では,何を,どこから,どのように指導していったらいいのだろうか。[> つづきを読む]
業績
- 戸田貴子(編),大久保雅子,神山由紀子,小西玲子,福井貴代美(2012).『シャドーイングで日本語発音レッスン』スリーエーネットワーク.
- 福井貴代美(2008).日本語学習者の韻律の習得に教室内指導が果たす役割――複合語のアクセントを例にして『日本語教育と音声』233-260.
- 福井貴代美(2007).日本語学習者の発音能力に関する一考察『早稲田大学日本語教育研究』10.
発表
- 福井貴代美(2005年7月9日).「プロソディー指導の一案―複合語のアクセントを例として」第3回「日本語教育と音声」研究会(早稲田大学).
- 福井貴代美(2007年3月)「韻律指導の実践と学習者の変化」日本語教育方法研究会.
修了後の報告
修士論文:日本語学習者の複合語アクセント習得に教室内指導が果たす役割
本研究ではプロソディー指導の一例として,複合語のアクセントに関する指導を行い,学習者のアクセントの聞き取りと発音にどのような変化が表れるかを調べ,教室内指導の有効性を確かめるとともに,指導対象者ではない上級レベルの学習者の聞き取り,発音についても調査し,指導の重要性についても確かめた。調査協力者は,指導対象者として,初中級レベルの学習者7名,その他に上級レベルの学習者5名,発音テストの評価者として日本語教師6名であり,この範囲内でのケーススタディーとしての報告である。
まず,指導対象の7名の学習者に対し,複合語アクセント規則の導入,プロソディーグラフ・自己モニター型学習の活用の3点を方針とした指導を行った。その前後に,複合語アクセントの聞き取りテスト(アクセント核を付す)と発音テスト(複合語を含んだ短文をよむ)を行い,その変化を確かめた。上級者にも同様のテストを行った。発音テストについては,問題文ごとに指導前後の音声と上級者の音声を合わせて,ランダムに編集したテープを作成し,日本語としての自然さをもとに5段階の評価基準により,日本語教師に評価を依頼,同時に具体的なコメントの記述を求め,考察の対象とした。一連の指導,テストの結果から,複合語アクセントの習得と指導の役割に関し,総合的に考察を行った。
その結果,聞き取り・発音とも,個人差はあるものの,どの学習者にも指導後の伸びが観察され,上級者であってもこうした指導を受けたことのない者の評価は低く,規則を導入して指導を行うことの重要性とその効果の高さを確かめることができた。また,聞き取りテストで好成績だった者は,発音テストにおいてもいい結果を出しており,両者の関連性が認められた。さらに,自己モニター力が高いと判断された学習者の発音テストにおける評価が高い傾向にあることがわかり,自己モニター力と発音能力の関係性も示された。
そのほか
- 出身:愛知県
- 現在,早稲田大学日本語教育研究センター契約講師