公開研究会「質的調査法研究会」:2008年度

第6回「他者のライフストーリーを書くとはどういうことか――語り手の物語と研究者の物語の関係性」

2月の研究会は再びライフストーリーがテーマです。今回は太田裕子さん(日本語教育研究科博士後期課程)に話題提供をお願いしました。11月の研究会での議論をさらに深められればと思います。

みなさまのご参加をお待ちしております。

発表要旨

日本語学習者や日本語教師の経験や実践知,意味世界の形成過程を,本人の語りから捉えようとするとき,ライフストーリーは非常に有効な方法です。今回は,11月の研究会に引き続き,日本語教育研究におけるライフストーリーについて議論したいと思います。

個人のライフストーリーは,語り手の置かれた状況や時間によって変化します。さらに,語り手によって語られたライフストーリーを「他者」である研究者が書くとき,様々な要素がライフストーリーに影響を与えていきます。

例えば,研究者である「私」の問題意識,「私」と語り手の関係,「私」が語りたい物語の存在などです。これらの要素が,ライフストーリーの語り,解釈,記述を方向づけます。

今回の研究会では,日本語教育研究において他者のライフストーリーを書くことと,研究者である「私」の関係を,皆さんと一緒に考えたいと思います。話題提供として,私自身がオーストラリアの日本語教師のライフストーリーを書く上で直面した課題や工夫した点を,具体的な事例を挙げながらお話します。

その上で,次の問題について,皆さんと議論できればと思います。

  • 他者の物語と研究者の物語の関係とは
  • 日本語教育研究におけるライフストーリーの位置づけとは
  • 他者のライフストーリーを「私」が書く上で留意することとは

第5回「授業研究のための質的データとは何か――授業ダイアリーの可能性」

  • 日時: 2008年12月12日(金)6:30~8:30(22号館502教室)
  • 話題提供: 武一美,古屋憲章,今井なをみ((株)早稲田総研インターナショナル)」

発表概要

私たちは自らを日本語教育の実践家であると位置づけている。実践家にとっての研究とは,何をすることであろうか。私たちは,自らの授業を《よりよい》ものにするために,自らが行なった授業を題材に考えることが実践家にとっての研究ではないかと考えている。具体的には,次の三つの行為を循環的に行うことである。

  1. 3.で把握した授業の全体像をもとに,自らの授業をデザインする。
  2. 1.の授業を実践しつつ,教室で起こっていることを記述する。
  3. 授業終了後(学期終了後),2.の記述を参考に,授業の全体像を把握する。

私たちは,上述した2.の行為を行った結果,産出される授業ダイアリーが授業研究のための有力な質的データであると考えている。本発題では,授業ダイアリーが授業研究のための有力な質的データであることを,私たち自身の経験を語ることを通して,示したいと考えている。その上で,授業研究のための質的データとしての授業ダイアリーの可能性について,参加者の方々と話し合ってみたい。

第4回「日本語学習者は,語るべき物語をもっている――ライフヒストリアンとしての私が,その「日本語人生」に出会って」

  • 2008年11月20日(木)6:00~8:00(22号館8階会議室)
  • 話題提供: 鄭京姫(早稲田大学日本語教育研究科)

発表概要

「日本語学習者は,語るべき物語をもっている」

この思いから,「日本語ライフヒストリー」研究は始まった。4年半にわたり25名の「日本語人生」に出会った発表者が,なぜライフヒストリーに惹きつけられ,研究方法を模索し,どのように自分なりにデザインしてきたのかを示したい。そして,その過程から会場のみなさんにライフヒストリーを感じていただき,共有していただきたい。さらに,日本語学習者が語る「日本語人生」から,日本語教育におけるライフヒストリー研究の必要性と可能性について考える場を設けたい。

第3回:講演「日本語学習活動への質的アプローチ」

  • 2008年6月27日(金)17時から(22号館8階会議室)
  • 講演者: 柴山真琴氏(鎌倉女子大学大学院児童学研究科教授)

講演概要

言語に媒介された人間の社会的活動を質的に研究することで,我々は何を知ることができるのだろうか。活動に参加する人々の意味づける行為を解釈することは,質的研究の特徴の1つである。本講演では,研究方法論としての質的研究法の骨格を確認しつつ,フィールドデータに潜在する意味を解釈していくプロセスについて解説する。(柴山真琴)

第2回「移動する子どものことばの学びを捉える――エピソード記述による試み」