加藤学園訪問レポート――イマージョンプログラムを実践する幼稚園

早稲田大学日本語研究教育センター 2001年度 日本語教育研究2「日本語学習とイマージョンプログラム」より

加藤学園とは――内山主事のインタビューより

幼稚園の概略(O担当)

加藤学園とは年少・年中・年長の3学年編成:イマージョンプログラムでは,1学年あたりの園児数は約50名

  • 園児総数 : 241名
  • イマージョンプログラム参加園児数 : 151名
  • 普通保育 : 90名

加藤学園のイマージョン教育

Partial immersion(パーシャル イマージョン)
10時から14時までの4時間の保育時間内で,英語と日本語にふれる時間が50%ずつになることを目指す。
主な日課
10時 登園 → 10時20分 活動開始 → 11時40分 昼食
昼食後は遊びの時間,昼寝
子供が集中している午前中をイマージョンプログラムにあてている。
指導体制
英語クラスは,外国人の先生が1クラスにつき2名で担当。
年少クラスは,日本人と外国人の先生のペアで指導。(ただし,この日本人の先生は,アメリカ育ちの日本語・英語バイリンガル。)
園児の進学
90~95%は加藤学園の小学校・中学校へ進学。
高校の段階で日本の学校にもどるケースが多い。

イマージョン教育を支えるために――今後の課題

遠距離通園
遠距離からの通園は,子供にとっては体力的に負担がかかる。
また,到着時間によって,子供の幼稚園滞在時間に差が生じる。
英語教師の採用と維持
教師採用のポイント…幼稚園教師の資格,職歴,日本語力などが一応の目安。
最も重視しているのは,幼稚園児と接する態度や人柄。
1クラスあたり2名の英語教師を維持することは,経営的には易しいことではない。

教師へのインタビュー

女性教師1へのインタビュー(K2担当)

Q:
いつから幼稚園で教えているのですか。
A:
今年の4月からです。昨年は沼津の小学校で教えていました。
日本滞在は2年目です。
Q:
日本人の園児に英語で教えることで感じるストレスはありますか?
A:
全くない。子どもはみな同じ。この仕事にやりがいを感じていてとても楽しいです。
Q:
加藤学園で教えていてどう思いますか。
A:
加藤学園で園児に教え初めて驚いたことは,園児たちが先生の話す英語をよく理解している事です。

男性教師1へのインタビュー(K3担当)

Q:
いつから幼稚園で教えているのですか。
A:
今年の4月から幼稚園に配属になりました。昨年までは小学校で教えていました。
Q:
幼稚園と小学校とでは,英語の授業はどのように違いますか。
A:
基本的に同じです。それほど大きな差はないと思います。
Q:
アメリカの子供と日本の子供は違いますか。
A:
とても違います。成長の仕方が全然違うと思います。
Q:
英語教育は,幼稚園からはじめるのと小学校からはじめるのとでは,どちらが効果的だと思いますか。
A:
外国語の学習は,早くはじめるほどよいので,幼稚園からはじめるのが望ましいと思います。学者の中には,早期の外国語学習は母語の発達に悪影響を与えるという人もいるが,私自身は母語の発達には何の問題はないと考えています。自分の娘も,英語と日本語のバイリンガルです。
Q:
園児によって,積極的に英語を使用しようとする子とそうでない子といますが,それは(海外経験など)家庭環境の影響によるものだと思いますか,それとも性格の問題だと思いますか。
A:
基本的に「性格」の問題だと思います。とにかく子どもたちはシャイですね。帰国子女であっても英語で話そうとしない子供もいます。一番積極的に発話する子は帰国子女ではないです。また,中には言語習得において天才的にすぐれている園児もいます。
Q:
指導が難しいところはどんな所ですか?
A:
多くの子どもたちは裕福な家庭の子どもなので,彼らのわがままに上手に対応し,しつける事が重要だと思っています。

女性教師2へのインタビュー(担当:K3)

Q:
いつから幼稚園で教えていますか。
A:
オレゴンで小学校教諭の免許を取得し,実際には幼稚園教諭を経験してきました。
Q:
ここではネイティブの先生は何名いますか。
A:
男性1名,女性5名です。
Q:
日本人の教師で英語を話せる人は何人いますか。
A:
4名います。
Q:
ネイティブの先生方は何年くらい担当するのですか。
A:
3年いれば長いほうです。ビザの関係もあるので。契約は1年ごとです。生徒との信頼関係を育てていくためには時間が必要なため,もっと長くいたいと思っています。
Q:
日本での英語イマージョン教育について情報を得られるようなネットワークはありますか。
A:
ほとんどないですね。同じ学園内でも幼稚園と小学校の情報交換は余り行われていないです。大変費用がかかる教育なので,今後広く普及することは難しいのではないでしょうか。
Q:
園児の保護者についてですが,英語を話す人はいるのでしょうか。
A:
親御さんの中には英語を話せない人もいるので,幼稚園では本とカセット・テープを1人1人に用意し,家で勉強してもらっています。親との連絡はNotebook(英語で記述)でとっています。
Q:
積極的に発話する園児とそうでない園児といますが,どう思いますか。
A:
性格によるものだとは思う。子供には個人差がある。中には注目が欲しくて積極的に手をあげるのに,指名されるとあまりたくさん表現できない子もいる。

日本人女性教師へのインタビュー

Q:
「イマージョン教育を前提とした採用だったのですか?」
A:
「いいえ,ごく普通の幼稚園教諭として採用されました。」(ネイティブとの会話に充分な会話力をもっていらっしゃる様子でした)

おまけ――幼稚園児Aくんへのインタビュー

Q:
幼稚園は楽しい?
A:
ここの幼稚園には,色々な人がいて,本当におもしろいよ。

K1クラスレポート

対象
加藤学園K1(年少クラス):入園後2か月
実施
2001年6月4日(月)

クラスの流れ

  1. 来た順番に着替えをする。――園児によってスピードに差があり,遅い園児には日本語の教師が手伝う。
  2. 着替えが終わった園児から教室中央にある半円ラインの上の色つき四角マークの上に一人ずつ座り,輪をつくる。――その間中 Make a circle とネイティブ教師のかけ声がかかる。
  3. 色についての質問をする。――教師のStand upという指示に反応して,立ち上がる。What is your color? と聞いて,色の名前を英語の単語で答えさせる。また,色の歌を歌いながら色の単語を覚える。
  4. 「幸せなら手をたたこう」の歌を先生に合わせて英語で歌う。――先生が Are you happy? と前ふりをする。
  5. 体の部位の名前についての質問をする。――園児は教師が指し示した体の部位について,英語の単語で答える。
  6. 出席をとる。――園児は(完璧な発音で)hereと答える。欠席の子がいれば,○○○is not hereとみんなで言う。
  7. 新しいroutine(お当番)を紹介・導入をする。――最初は日本人の先生が日本語で説明してその後ネイティブ教師が説明する。人形などを使って,お当番とそうでない園児の違いを強調した上で,Who is the helper? I am a helper.と,歌仕立てにしてを歌いながら覚えさせる。
  8. ハンプティー・ダンプティーの卵を見せながら,その歌を歌い,ビデオをみる。

生徒の様子

園児の英語使用

K1クラスレポート園児が自分から英語で発話するという行動はほとんど見られなかった。園児どうしの会話はほとんど日本語だった。

英語の問いかけに反応して,立つ,座る,手を上げるなど理解を行動によって示しているようであった。しかし,しかし,簡単な質問に英語の英語の単語で答えることはできていた。

逆にたまに起こる日本語の先生の日本語の問いかけには英語の時より元気に答えているように感じた。

教師の様子

教師の役割担当

2人の教師が担当。基本的にネイティブ教師が中心になってクラスを進め,日本人教師はサポートという役割であった。

日本人教師は日本語が必要なときに日本語で説明したり,クラスの流れについていけない子供のサポートをしていた。

教師の英語と日本語の使用

ネイティブ教師はほとんど英語で話していた。生徒が話す日本語もあまり理解していないようだったが,ほんの数回日本語の単語を発することはあった。

ただし,新しいことがらRoutineを導入する時には,最初に日本語で説明をしてから英語で行うようにしていた。

クラスの雰囲気など

園児への英語の導入・定着方法

教師は英語のフレーズや単文にメロディをつけて,歌うようにしながら,同時に動作を見せるようにしていた。それは園児の関心を引くとともに,楽しいクラスの雰囲気作りに役立っていた。

園児は先生やみんなのすることを見て単に真似をしたり,あるいは,(毎日あるいは1日に何回も)繰り返すことによって,英語の歌を歌ったり,新しい単語を覚えたりしているようだった。

ネイティブの先生は入園してまだ2か月足らずなのに,園児らの英語が上達していることに満足していた。

K2クラスレポート

対象
加藤学園K2(年中クラス)
実施
2001年6月4日(月)

クラスの流れ

  1. 来た順に着替えをする
  2. 自由遊びをする
    終了時には "Clean up time!!"とネイティブ教師の声がかかる
  3. 全員でトイレに行く(Bathroom time)
  4. 曜日についての英語の歌を歌い,質問される
  5. 「家と部屋」について学習する
  6. 家の工作をする
  7. アルファベットの導入をする
  8. 図形と色の学習をする
  9. 心理状態を表す単語を学習する
    表情と歌で覚えさせる

園児の様子

K2クラスレポート遠足活動の次の日だったせいか,園児の集中力が足りない様子であった。

園児の中には私語や勝手な振る舞いをしている子もいた。教師が英語の歌を用いながら学習させると集中してなかった園児も積極的に参加するようになった。

園児同士では日本語で話し,独り言には英語が混じることもあり,それが単語ではなく句や節の形になっていた。「I can't・・。よいしょっ。」など。

教師の様子

2人のネイティブ教師が協力して保育を行っていた。

指示はすべて英語であった。

園児が教師に対し日本語で話しかけても英語で話していた。

保育中,園児がトイレに行きたい場合"May I go to the restroom?"と文章で言えないと行かせてもらえない。

クラスの雰囲気

K1に比べると歌でなく,言葉のみの説明が大半で文章になり,複雑なものとなって いた。

教師が英語の歌やストーリーを通して英語を理解させていた時は,園児は楽しみな がら,集中して活動に参加していた。

K3クラスレポート

対象
加藤学園K3(年長クラス)
実施
2001年6月4日(月)

クラスの流れ

  1. 朝の会を行う――出欠をとる。(Here)で答える。
  2. 日付の確認を行う――'The month is ~'から始まり`Today is ~',`Yesterday was ~',`Tomorrow will be~'など時制によるbe動詞の変化も指導。単語だけでなくセンテンスで練習させている。
  3. 天気の確認を行う――教師が`What is the weather like today?'と尋ね,生徒一人が答える形。上記の日付に`The weather is ~'というセンテンスも加え,全員で復唱する。
  4. 曜日の確認を行う――Sunday ~ Saturdayを一息で言う(2~3回)
  5. 数字の復唱を行う――既習の数字からその日初めて習う数字までを皆で数える。
  6. 歌にわせてスペリングの確認を行う――歌を用いてスペリングやアルファベットへの関心を高める。
  7. 絵本を読み聞かせした後,ビデオ鑑賞をする――ディズニーの「リトルマーメイド」を鑑賞

生徒の様子

K3クラスレポート私語の多い生徒や,勝手な振る舞いをする生徒もいたが,半数以上が先生の話に集中していた。教師が授業に歌やリズムといったものを用いると,それまで集中していなかった生徒も積極的に参加していた。生徒同士の会話は日本語で行われていたが,教師には英語で対応していた。アクセント・発音は完璧。また,英語を文章にして発言することができていた。

教師の様子(専任教師1名・アシスタント教師1名)

私語が多い生徒や,勝手な行動をとる生徒はアシスタント教師が違う部屋へ連れて行くなど,必要なときは助け合う協力体制が整っていた。『静かにしなさい』,『ここに座りなさい』などの指示もすべて英語で行う。絵,リズムや歌を多用することで生徒の注目をうまく集め,集中力を保つようにしていた。

クラスの雰囲気

生徒は教師には英語,友達には日本語と言葉を使い分けていたが,そのことで授業に混乱が起こることはなかった。生徒は教師に怒られるときも英語で対応し,年長組だけあって「慣れ」を感じさせた。

一般の幼稚園と同様に,様々な生徒が自由に振舞っているという印象を受けた。

日本語教育2のクラスについて

2001年度 早稲田大学日本語研究教育センター 設置科目
日本語教育研究2 「日本語学習とイマージョンプログラム」(担当:宮崎里司)

日本語教育研究2のクラスについてこの講座は早稲田大学日本語研究教育センターにおける日本語・日本語教育研究講座の一つとして開講されている。

イマージョンプログラムは語学教育の一プログラムとして各国で注目・実践されている。

この講座では,イマージョンプログラムがどのように日本語教育に取り入れられているかが,国内外の具体例をあげつつ紹介された。マルティメディアを利用して情報の検索・発表,またマルティメディアを使用した語学学習教材も体験した。

2001年度のクラスは,早稲田大学の学生のみならず現役の日本語教師も複数受講し,活発な意見交換・ペアワークがなされた。

2001年度の主な活動

  • 宮崎先生のホームページのリンク集をベースに,国内外のイマージョンプログラム実践教育機関のホームページを閲覧して情報を入手する。(講義中も各自端末使用)
  • オーストラリアの小学校において日本語イマージョンを担当する教師(2名)のインタビュー(録画)を視聴する。
  • 日本語イマージョンプログラムについて書かれた論文(英語・日本語各1)を読み,reviewを書く。
  • オーストラリアの大学において行われている日本語教師養成のためのイマージョンプログラムについて,インターネット,論文などを参考にしながら内容を把握し,発表する。
  • 早稲田大学-オレゴン州立大学において行われてきた日本語教育プログラムの変遷と内容についての講義。
  • (希望者のみ)英語イマージョンプログラム実践校である加藤学園幼稚園(沼津市)を訪問見学し,報告発表をして,ホームページを作成する。
  • 日本または海外でのイマージョンプログラムをコースデザインし,発表する。