宮崎里司の「プリンストン通信」 2

[2004/11/02]

Lindt Chocolate ShopのTrick or TreatとJack-o'-Lantern第一回目の配信後,遅ればせながらの,プリンストン通信2。プリンストン大学では,10月の最終週に1週間学期休みに入り,10月末日のHalloweenの行事が終わると,後半の学期が始まる。科目によっては,学期休みの前に中間試験が行われ,一部の学生にとっては息抜きの休みになるが,休み明けに試験を行う教授もいるようである。因みに,Daylight Saving により,サマータイムが終わるのも,10月の最終日曜日と決まっているようだ。これにより,日本とは14時間,アメリカとは逆に,サマータイムが始まるオーストラリアとは,16時間の時差が生じる結果となる。

研究講演会

アインシュタイン物理学教室私の在外研究も,慌ただしく2ヶ月が経過した。10月20日には,牧野先生が私の研究講演会を企画してくださり,"A Close Look at Second Language Acquisition: Why Do Foreign Sumo Wrestlers Speak Fluent Japanese?" という演題で講義をした。講義は,かつてアインシュタインが使っていた物理学教室の,Lecture Hall (Frist Campus Center 302) で行われたが,古びた実験器材なども残されており,いい想い出になった。彼は,死後,大学内での memorabilia(遺品)の展示を固辞したということだが,大学が,記念としたい気持ちが伝わってくるようであった。

卒業生の近藤さん来訪

近藤邦子さんところで,その翌日,アイオワ州のGrinnelという私立大学で日本語を教える,日研の2期生,近藤邦子さんが遊びに来てくれた。大学の休みに,息抜きを兼ねて,ニューヨークでミュージカルを見るついでに立ち寄ってくれたが,元気に活躍する卒業生であった。彼女自身,大学で生き抜くためには,学位(修士号ではない)と業績(+教育)がなければ,話にならないことを,徐々に意識しはじめたようである。日本の大学関係者も,こうしたことを強く意識し,「自らは持たずとも,しっかり学ぶ教え子には,ためらいなく授与する度量を持ち合わせる」academic competenceを,一日も早く獲得していただきたいものである。現時点では,日本語教育の研究者の中で,Ph.D(またはEd.Dでも可)を持っている者が少なすぎるため,こうしたことを声高に主張するグループは,少数派かもしれない。「満期修了または退学」という英訳は,逐語訳をしてもなかなか通じないようである。

さて,そのニューヨークだが,所用で時々出掛けている。これまでもブリーフケースに写真を載せているので,研究室の院生はすでに承知していることだろう。11月,12月には,プリンストンで話した内容と同様なトピックで,コロンビア大学NECTJ(北東部日本語教師会)Japan Societyなどでも話すことになっている。私にとっては,とくに目新しいトピックではないが,松井,イチローなどの英語習得との関連も織り混ぜながら,聴衆の反応を見ることにしたい。もちろん,日本語教育関係者とのネットワークを広げられるので,楽しみではある。

プリンストンと早稲田の比較?

こちらで,プリンストンと早稲田の違いを聞かれたが,もともと,異なるアカデミック・カルチャーの上に成り立っているため,比べても詮無きことかなと思った。早稲田は在野精神に長け,こちらプリンストンは,保守派層が多いと言われるが,全体的な傾向は把握できても,個々の行動まで読み取れるわけではない。ましてや,短期滞在の私に分かろうはずもない。ただ,学生の行動には,いくつか留意した。今月行われた大統領選挙を前に,こちらでは,キャンパス内で,表立ってアジテーションをしたり,所謂「立看」といったものが一つも見られず,あるのは,寮の窓に貼られた,「Kerry Edwards」やら,「Bush & Cheney」などのポスターだけだった。

スカイプの利用で遠隔指導

宮崎研究室の院生との指導であるが,海外に移動してからも,E-mail, Windows Messenger, Yahooのブリーフケース,などを利用しながら,比較的うまく遂行できているのではないだろうか。むしろ,個々の研究の進捗状況について,耳を傾ける時間が増えた気がする。なかには,相変わらず距離を置いて,響こうとしない院生もいるものの,問題意識がある院生は,教員がどこにいようと,きちっと連絡を取り合って自律的に研究が進められることが観察できた。このように,さまざまなネット環境の有効性を実証しているが,最近,P2P型の無料IP電話ソフト「スカイプ」を利用している。これは,P2P型のVoIP通話機能とインスタントメッセンジャー機能を備えたソフトで,高品質な通話が可能で,ユーザー同士の通話は無料となる。音質もかなりよく,研究指導はもとより,入試面接にも応用したが,全く問題はなかった。これを導入することにより,海外でサバティカルを過ごす教員は,「指導ができない」といった言い訳は通用しなくなることが予想され,重要な責務を継続しなければならないという強い縛りが働くことになる。院生も,指導を受けるのは当然の権利と自覚し,大いに教員を利用すべきである。

ジョギングで体力つけて

プリンストンスタジアム大統領選挙が終わり,キャンパスの木々も競うように,冬支度を始め出した。「おかみさん」に関する本の執筆も,そろそろギヤ・チェンジしなければならない。そんな中,この1ヶ月ほどジョギングをするようになった。ほぼ毎夜,自宅(スタジオ)からプリンストン・スタジアムまでと,スタジアム内を,1,2周する,2,3キロの行程だ。散歩のほうがいいと,気遣う向きもあるが,汗をかくにはうってつけだ。健康志向の表われもあるが,何よりも,しっかりとした研究指導,研究活動,その他諸々の仕事をこなすため,「体力をつけて,さらにいい仕事をしたい」という気持ちが強い。これも,大学を離れ,自らを見つめなおす時間が取れたお蔭と,早稲田には,ひそかに感謝している。