宮崎里司のモナシュ通信 第1回

「年少者日本語バイリンガル・プログラムの現場から」

日本語教育の視点から,海外の国際・教育・文化事情を伝える

ビクトリア州の日本語バイリンガル教育は,'80年代に,メルボルンから東に150km程離れたモーウェル市で,褐炭液化プロジェクトにかかわる日本人技術者が移り住み,その関係で現地の小学校で日本語を教えはじめたのがきっかけである。

モナシュ大学から程近いハンティングデール小学校(Huntingdale Primary School: HPS)は,1954年に開校された公立小学校で,1997年に州の教育委員会より,日本語イマージョンプログラム実験校に指定された。2004年現在,27ヵ国,159名の児童が学び,生徒の両親またはいずれかが日本人の割合が15%に上っている。週に2時間半の英語以外の外国語(Languages Other Than English: LOTE)として日本語を勉強する他に,5時間の教科学習,理科(Science),音楽(Music),図工(Visual Arts),体育(Physical Education)が日本語で教えられ,社会(Studies of Society and the Environment)は,1時間ずつ,英語と日本語で教えられている。この授業以外にも,日本語の接触を増やすため,週の朝礼や教師との接触の中でも,積極的に日本語が使用されている。

LOTEは8つの必修科目の一つで,すべての小学校がどの言語を教えるかを選ぶことができ,2001年の国勢調査では,日本語学習者がもっとも多くなり,その数は40万を超えるまでに増加した。ビクトリア州でも,1311校の小学校がLOTE日本語を導入しており,小学生の20%に当たる55,000人,高校まで含めると,その数は10万人を超える。

HPSのプログラムでは,生徒たちの言語レベルや科目の指導項目に合った教材が作成され,とくにマルチメディアには,最も力を入れており,1999年には,州政府から補助金を得てその拡充を図っている。その他の革新的なプログラムとして,週に一度,プレップから6年生までの全学年が混合グループに分かれ,テーマに基づいた1時間の授業を受けるクラスもある。また,5,6年生を引率し,2年に1回,長野県大滝村にある小中学校に,1週間滞在するジャパン・トリップは,日本文化を理解し,既習の日本語をさらに高める効果もある。

ロス・モア校長(中央)と日本語バイリンガル・プログラムコーディネーターのカイリーファーマー先生バイリンガル・プログラムのコーディネーターであるカイリー・ファーマー先生によれば,プログラムは,学校関係者の他に,多くの日本人ボランティア,保護者会,教育委員会,それに日本人会などの支援もあるという。また,国内外のビジターや日本語教育を専攻する教育実習生を受け入れ,広報活動も行っている。テーマ・言語・指導項目を統一させた授業を行っているが,日本語の習得度を確認するため,LOTE observation surveyを導入。さらに,日本の中学2年生から高校1年生に相当する生徒に行う,Australian Language Certificate testを,HPSの4~6年生に受験させ,好成績を上げているという。加えて,日本語で教えている科目内容の習得度を評価するために,州の標準カリキュラムを評価基準として採用するなど,評価やフィードバックにも関心を向けている。

HPSのモットーは,「目標高く(High Aim)」。日本国内では,年少者の日本語教育への関心はまだ低いが,今後は,高い目標を掲げた,海外の日本語教育機関のプログラムに注視していく必要がある。 [2005/2/16]

今回の記事は,カイリー・ファーマー氏が,2004年に国際研究大会(昭和女子大学)で「小学校のバイリンガル教室のアクティビティー ─オーストラリアの経験から─」を参考にしました。