ワリとまじめにオーストラリア見聞録

2001年8月7日より9月5まで,オーストラリアに行って参りました。現地では様々な日本語教育機関を訪ね,色んな体験をすることができました。ちょっと報告させていただきたいと思います。

春口 淳一(宮崎研究室1期生)

モナシュ大学日本研究科

モナシュ大学自分の英語力への危機感から,「夏休みを有効に利用したい」というのがそもそもの始まりでした。というわけで,MUELC(Monash University English Language Centre)でまずは英語を勉強することに。ここでは朝9時から夕方4時まで英語で勉強していました。クラスの振り分けは,文法・語彙のチェックだけで行われたため,「話す」「聞く」に問題を抱える私としては,不相応に高いレベルに組み入れられたように思います。評価は四技能全般に渡るべきですね,やっぱり。

モナシュ大学といえば,日本語教育が盛んなオーストラリアの中でも,研究・教育ともに名の通った名門大学です。幾つかあるキャンパスの内,メルボルン郊外ClaytonにはMUELCと共に日本研究科もあり,私も度々お邪魔させていただきました。

日本研究科ではレベルAからFに渡って,日本語のクラスが設定されています(Aが初級)。

レベルAのクラス(スペンス-ブラウン先生)の授業では,英語によって講義が行われていました。また授業の特徴としては,パソコン・プロジェクター・OHP・ビデオなど,メディア機器をふんだんに利用していることが挙げられるでしょう。これは「生徒を飽きさせないため」の工夫であるとのことでした。

レベルDの学生と一方レベルDのクラス(吉光先生)は,日本事情中心の授業と言うことができるでしょうか。「中級から上級への日本語」をテキストに,新出語彙を確認しながら,トピックごとにディスカッションを行っていました。学生は,いずれも少なからず滞日経験を持ち,会話においてはほとんどの人が不都合を感じさせませんでした。

また日本語の授業だけでなく,post graduateのクラスにも顔を出させていただきました。日本研究科のヘッド,マリオット先生の授業には日本人5名,オーストラリア人,シンガポール人,台湾人がそれぞれ1名出席していました。テーマは「異文化教育」で,毎週文献のレビューを担当学生が発表する形式を取っていました。使用文献には,例えば下記のようなものが挙げられます。

使用文献(一部)

  • Neustupn'y, J.V. 1987 Communicating with the Japanese. The Japan Times.
  • Yachimowicz,D.J. 1987 The effects of study abroad during college on international understanding,and attitudes towatd the homeland and other cultures. UMI.
  • Okamoto,N 1991 Intercultural adjustment of Japanese high school exchange students in the United States on a one-year home-stay program. UMI.
  • Scollon,R and Scollon,S.W. 1995 Intercultural communication A discourse approach
  • Ballard,B and Clanchy,J 1984 Study abroad : A manual for Asian students
  • Liberman,K. 1994 Aisan students perspectives on American university instruction. Int.J.Intercultural Rel.,Vol.18
  • Yee,A.H. 1989 Cross-cultural perspectives on higher education in east Asia : Psychological effects upon Asian students. Journal of multilingual and multilingual development.Vol.10
  • Marriott,H 1995 Secondary exchanges with Japan : explring students experiences and gains. ARAL Series.

モナシュ大学 Bayview Conference Centre

Bayview conference centerMUELCに籍をおいたため,滞在先としては専らモナシュ大学の寮を利用していました。MUELCまでは歩いて15分。近いようですが,冬の朝は億劫なものでした…。

寮には共同のシャワー室,トイレがあり,また共同キッチンが付いてます。センター内にはコインランドリーもあり,私も利用しました。 一方,部屋には洗面台,本棚,机,スタンドライト,ベッドが据え付きになってます。

一週間単位で契約した場合,一泊あたり33A$。一ヶ月単位では,20ドルになります。現金はもちろん,カードもVISAが利用できます。

メルボルン大学

メルボルン大学というと,オーストラリアでも最も古い大学のひとつに挙げられ,まさに名門中の名門。メルボルン市内のほぼ中心に位置しています。モナシュ大学が日本語で有名なように,これまで中国語が盛んでしたが,近年日本語にも力を入れるようになったとの事です(メルボルン大学久保田満里子先生より)。

メルボルンでは,初級レベルの授業に会話の相手として参加しました。が,早朝,郊外から市内へは道路が渋滞。大幅な遅刻で,担当の関口先生には嫌なスリルを味合わせてしまいました。それも,今となってはいい思い出?

学生は3~4人一組で,予め各自が相談していた内容で私にインタビューを行いました(一組15分ほど,10組程度)。家族構成や趣味,食生活など簡単なものをトピックとして扱いました。アジア系出身の学生がほとんど。私が担当した学生さんは,一人を除いてみんな女性でした。学習者であっても「日本語」は,女性が中心といった印象を受けます。

国際交流基金シドニー日本語センター

7月に早稲田大学とテレミートを行ったご縁で,これを担当されていた七世・加藤-ワイルダーさん(チーフプログラムコーディネーター)からお誘いいただき,シドニーにお訪ねしました。

メルボルンからシドニーまでおよそ1,000km。行きはバス,帰りは電車でいずれも12時間。成田~シドニー間のフライト時間より長いですね。

2泊3日の日程でしたが,初日はシドニー観光に当て,2日目は基金主催の"日本語弁論大会"にお邪魔させていただきました。

弁論大会 弁論大会は各州ごとに行われ(ノーザンテリトリーは除く),それぞれの最優秀者が全国大会に進出。そこで優勝したものに日本での語学研修が与えられます。このうち私が見学したのは,ニューサウスウェールズ州大会になります。

大会は日本総領事臨席のもと開会され,レベルごとに日頃の練習の成果を競います。レベルは滞日経験や学習歴等により,選別されますが,トピックに個性が見られ,面白かったですね。

喧嘩ばかりしていた母を病気で亡くした女の子の『ありがとう,お母さん』は,本当に泣けました。スタッフでも涙する人は少なくなかったようです。ただスピーチとしての性格に欠けるため,評価はあまり高くなかったようです。表現力に富むばかりでなく,自己の経験を通して説得力を有すことが求められるのではないでしょうか。

弁論大会後は英語落語というイベントがあり,こちらも盛況でした。

ハンティンデール小学校

ハンティンデール小学校 イマージョンによる日本語教育で有名な,ハンティンデール小学校にもお訪ねしました。

日本語による教科教育を行っているわけですが,これは1年生から行われます。英語(当たり前ですね)と数学,社会の一部を除いて,その他の全教科が日本語によって教えられます。

イマージョンは徹底していて,例えば騒がしい子供を注意する時でも,英語ではなく日本語で行われていました。図工と理科,体育の授業を見学することができましたが,例えば絵の具も,「くろ」「きいろ」といったように日本語で表記されていました。

絵の具 ハンティンデール小学校は公立のため,その地域に住む児童が通うことになりますが,当然地元住民の理解というものが重要になってきます。他所から引っ越してきた人にとっては,戸惑いを覚えることも珍しくは無いでしょう。

またハンティンデール小学校からは,毎年若干名(10名前後)の生徒が日本へ短期交換留学するプログラムも設けています。

あとがきにかえて

1ヶ月という限られたスケジュールの中で,振り返れば,慌ただしくも楽しい日々でした。オーストラリアでの日本語教育事情について,直に触れる機会を持てたことはたいへん勉強になりました。お世話になった諸先生方に改めてお礼申します。

宮崎邸 また渡豪において親身に相談に乗ってくれた大久保祐司さん,現地での生活をサポートしてくれた湯川高志さんには,特に感謝の意を表さなければならないところです。

今回このような研修の機会を設けるにあたって,お力添えを頂いた我が指導教員,宮崎里司先生にお礼を申し上げます。宮崎先生にはご家族と共に,そのお宅にて最後のオーストラリア生活を楽しませていただきました。ありがとうございました!!

と,このように今回のオーストラリア研修においては,多数の方のご協力にすがっておりました。ネットワークの重要性は語学習得においても認められるリソースの一つですが,それだけに限らず,人間のあらゆる行動の一つ一つの局面において「大切なものなんだなー」と痛感しているところです。

〔研修心得条――ちょっとオオゲサ〕

ネットワークと合わせて,実際関係各機関にお世話になる際の心構えといったものも疎かにできないところではないでしょうか。

今回私は宮崎先生から紹介していただいた方々へ来豪以前,一ヶ月ほど前からE-mailでコンタクトを取りました。度々メールでやり取りさせていただく中で,スケジュールが決まってきます。「出たとこ勝負」も有りですが,早め早めを心がけるに越したことは無いでしょう。あんまり突然では,失礼ですし。

授業見学では,先生の仕事場に踏み入るわけですから,予め許可を取ることはもちろん,ビジターとしての枠を逸脱しないよう配慮することを心がけました。また何であれ,お手伝いすることがあれば積極的に向かう姿勢が重要ではないでしょうか。(…実際は,手伝うことはあまり無かったですけれども。)

ヒトサマの好意の上に研修が成り立っていることは,忘れるわけにはいきません。