墨田区立文花中学校 夜間中学日本語学級 見学報告 2003
- 日程
- 2003年11月12日
- 見学者
- 飯野令子・武蔵裕子(以上 川上研),葛茜・伊藤静・大塚武司・中野真規子・林逸菁(以上 宮崎研),宮崎里司(引率)
1. 見学機関データ (2002年2月19日現在)
機関名 | 墨田区立文花中学校 夜間中学日本語学級 [HOMEPAGE] |
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住所 | 〒131-0044東京都墨田区文花1-22-7 |
機関代表者 | 佐藤忍校長 |
日本語学級担当教諭 | 6名 |
機関設立年 | 1999年4月,吾嬬第三中学校,曳舟中学校の統合による文花中学校の開校に伴い,曳舟中学校夜間学級が文花中学校夜間学級としてスタート。 |
2. 授業見学報告
Fクラス
1時間目
- 担当教師
- 菊池先生
- 授業内容
- 新文化初級日本語Ⅰ 22課
- 授業の様子
- 授業前の時間は,クラス中とても楽しそうに母語で会話をしていた。先生が教室に入り,授業の前に連絡事項があり, 「文化祭でのキムチ予約販売の申し込み」の仕方について先生が説明された。配布プリントに書いてある内容(いつ・いくら・いつまでに)をしっかり確認した。
- 授業は前回の復習で,「~ことができます/できません」の反復練習だった。正社員とアルバイト・パートと公務員の違いをクラスで確認して例文にしていたが,違いの認識と例文作りが難しそうだった。その後本文をペアリーディングした。
2時間目
- 担当教師
- 菊池先生
- 授業内容
- 楽しく聞こうⅠ 22課
- 授業の様子
- 並べられた形容詞から性格を指すものと,そうでないものを分ける作業から入ったが,ほとんどの単語を知らなかったので,一つずつ先生が説明した。 学生は中国語で「○○(と同じ意味ですか)?」と聞き返すが,先生が否定すると分からなくなってしまっていた。
- 形容詞の違いの説明では院生も指名されて手伝ったが,あまり上手くできなかった。遅刻して入ってきた学生もいたが,この日は珍しくクラス全員が揃ったということだ。
3時間目
- 担当教師
- 代講の先生
- 授業内容
- 楽しく聞こうⅠ 第22課
- 授業の様子
- 若い学習者が数名,遅刻して教室に入った。担当の先生はテープの内容を1文ずつ書き出し,語彙をひとつひとつ説明していた。教材の内容が,若干難しかったようで,時間のほとんどが先生からの語彙の説明に費やされ,時間内にこの課は終わらなかった。
Gクラス
1時間目
- 担当教師
- 菅沼先生(代講)
- 授業内容
- 文化初級Ⅱ 22課可能形の復習,テキスト本文読み。見学者との自己紹介。
- 授業の様子
- 本来,普通学級を担当している教師が担当した。このように,日本語学級,普通学級の教師が交代することが時々あると言っていた。見学者である院生と学生との自己紹介からスタートした。
- 可能形を使った会話を試みていたが,ます形,可能形が混在する質問に対応するのに,学生は少し難しかったようだ。
- 本文会話のようなものを音読。全体で音読,次に二人ずつ音読。分らないことがあると,生徒同士が,中国語で助け合っていた。
2時間目
- 担当教師
- 石森先生
- 授業内容
- 文化初級Ⅱ 22課 ~ければよかった/~なければよかった。
- 授業の様子
- 細かく切ったOHPシートを1枚引き,そこに書いてある文をOHPに映して,理由を言う「~んです」の文(『クラス活動集』のもの)から後悔の「~ければよかった」を引き出す練習だった。
- OHPを使うのが新鮮で,文をくじのように引かせるのも楽しい雰囲気になっていた。しかし,練習はなかなかスムーズにいかなかった。はじめに復習や基礎的な変換練習があれば,もっとスムーズにできたのではないだろうか。
- 1コマ50分で,復習,導入,練習,応用という流れを作り,その項目を定着させるまでにするのは難しいのではないかと感じた。
給食
今日のメニューは「八宝菜」と「たまごスープ」でした。 |
2時間目が終わるとすぐに食堂へ向かった。食堂では全員がてきぱきと行動し,配膳を協力して済ませた。給食はクラスごとにまとまって席についた。教師は適当に混ざって給食を取っていたようだ。
全員一斉の挨拶とともに,食事開始。それぞれクラスメートと話しながら食べていたが,話しながらもかなりの短時間で食事を済ませている人が多かった。給食はかなりのボリュームもあり,栄養も計算されているので,生徒にとって恵まれた環境だと感じた。
食事の終わりに,希望者は血圧の測定が実施される旨の全体への連絡事項が告げられ給食の時間が終わった。給食の時間が全体集合の時間となるので,連絡事項の確認に利用されているようだ。
3時間目
- 担当教師
- 澤井先生
- 授業内容
- 文化初級Ⅱ 22課 条件形,程度・頻度の表現(~に~回)
- 授業の様子
- 文化祭の準備で3名が抜けていたので,1名のみの授業だった。条件形の形を少し復習。教師が出した例のみ,活用練習を行った。テキストの例文を読み,程度の表現を紹介した。
- テキストと同じ質問を教師が見学者にしたが,基本的にはテキスト外の文を使ったQAは行なわれなかった。最後に1名文化祭の練習から帰ってきたが,学生が少なかったので先には進まなかった。
Jクラス
1時間目
- 担当教師
- 授業内容
- 文化初級Ⅰ 9課 「~てください」の導入
- 授業の様子
- 担当の先生が授業をはじめる前,中国語で学生と軽く挨拶して,学生達も中国語で先生と気楽に挨拶などを返していたので,先生と学生の間に親しい関係を築いているようであった。
- 挨拶などの雑談の後,学生に「今日は何日?今は何時?」といった質問で,月,日,曜日,時間の言い方を復習をした。若い学生のできがよかったが,年輩の学生が覚えるのには時間がかかったようだ。学生の年齢差などの要因で日本語の習得能力に大きな差が見られた。
- 文型の練習はほとんど教科書の本文を読んだだけで,目標文型のある文を繰り返して読んでいるうちに,50分の授業が終った。学生の中で,熱心に勉強している学生もいたが,あまり積極的に授業に参加しない学生も見られ,学生によって勉強のモチベーションはそれぞれ違うと感じた。
文化祭準備
演劇の準備
文化祭で発表する日本語劇の声の出演だけをする学生のセリフ録音が行われていた。人数が限られているので,掛け持ちをする学生も多いらしい。学生はみな非常に熱心 に発音の練習をしており,先生が機材の準備をされている間,院生が発音指導をした。
セリフの意味をすべて理解しているわけではなく,音で暗記していた。発音を直されるのを喜んでくれ,とても素直に何度も何度も繰り返していたのが印象的だった。最後にはとても上手に録音することができ,私自身も嬉しくなってしまった。
和太鼓の練習
指導の先生の2人とも,非常に活気に満ちて,元気な方であった。和太鼓の指導をする際に,黒板に三つのリズムを書いて,各リズムの練習をふまえた上で,本番の練習に入った。
個人個人に指導はしていなかったが,先生たちが太鼓叩きに対する真剣さに影響されたのか,和太鼓をたたいたときの気迫に引っ張られたのか,練習が進めば進むほど,参加者全員が懸命に和太鼓を叩いていた。
私があまりの音痴なので,最後になってもリズムを覚えることができなかったが,和太鼓叩きに真剣な空気が漂っている練習会場で,リズムを間違えてもずっと体を動かして太鼓叩きの練習をしていた。
和太鼓が叩かれた音が心の奥まで響くというのは和太鼓の魅力だと思う。このような体験は日本語の勉強とはあまり関係がないが,日本の文化を知るのに非常に良い経験だと思う。私は初めて生の体験をしたので,非常に満足している。
3. 感想
夜間中学用の,
しかも日本語クラス用の小さい教室がいくつもあることに驚いた。また,普通の中学の先生方が専門ではない日本語教育や中国語の勉強をして,中国人学習者の多い日本語クラスに対応しているのには感心した。
日本語クラスを担当する先生方のためにも,教授法等について,より深く学べる場を設けるべきだと感じた。また,毎時間日本語を勉強するのに,50分ごとに先生が変わるのでは連携が難しく,不都合な点が多いのではないかと感じた。
想像していた以上に
大規模に夜間中学が運営されており,驚いた。また,抱いていたイメージよりも若い学生が多く,建物自体も非常に新しく清潔だったこともあり,明るい雰囲気が満ちていた。
クラスの数も多く,学生と先生の距離がとても近く感じられた。学生の多くが中国語を母語とするようだが,垣間見ただけでも様々な年齢層,社会的立場,経歴を持っていることが伺えた。そのような多様な学生が一緒に学ぶという不思議な時間と空間だった。学生達が「日本語の授業は全部おもしろい」と言っていたのが印象的だった。
生徒数も多く,
夜間中学の職員室が独立しているなど,予想以上に規模が大きいことに驚いた。せっかく日本語授業が独立して運営される体制になっているので,日本語学級を担当している先生方に教授法についての体系だった研修が受けられるような環境作りが必要だと思った。
中国語を母語とする学生が多いからか,担当教師の授業で中国語の使用が目立ったが,生徒の受ける情意的な親近感や理解の促進に役立つ反面,多用しすぎると日本語習得を妨げる恐れもあると感じた。
文花中学の
文花中学の夜間中学は普通の学校とほぼ変わらなく,職員室,日本語授業の教室,給食の部屋などの施設が整っていて,規模が予想以上大きいことに感心した。
ここに通っている学生の90%以上,ほとんど中国語母語話者であることは驚いた。このような状況の中で学習者とのコミュニケーションに対応できるように,日本語授業を担当する先生が皆中国語をお話しになることも驚いた。
また,授業中,先生が中国語で授業を行うことが多く,学生同士が常に中国語で会話を交わすという環境の中では,日本語の習得は遅くなるのではないかと思う。
しかし,今日一日,見学した限りでは,学生たちが日本語を習得するのが,もちろん重要な目的,それ以上に夜間中学の様々活動に取り組んで,仲間との時間を楽しんでいるように見てとれた。