早稲田大学と墨田区連携協定で文花中学校夜間学級の教育を支援――地域のニーズに応える
今年四月の国立大学法人化に伴う法人格の取得や非公務員型への移行によって,産学官連携が各地で進んでいる。
「産学官連携」とは,企業(産)が,技術シーズや高度な専門知識を持つ,大学等(学)や公設試験研究機関等(官)と連携して,新製品開発や新分野進出等を図ることをいう。
「産学官連携」には,
- 企業が大学等の保有する技術(知的資産)を活用する連携(産学)
- 企業が,技術センター等の公設試験研究機関等の専門知識や設備を活用して技術開発や試験・分析等を行う連携(産官)
- その両方を活用する連携(産学官)の三パターンに大きく分類される。
早稲田大学は二〇〇二年十二月に東京都墨田区と連携協定を締結した。早稲田大学にとって墨田区は隅田川での早慶レガッタなどを通じて百年近くの歴史を有する,縁続きのある区だ。
墨田区の連携事業は「産業振興」「文化」「まちづくり」「人材育成」と多岐にわたる包括協定で,その拠点となるのはすみだ産学官連携プラザ,早稲田大学すみだサテライト・ラボラトリーである。そこには,同学大学院日本語教育研究科言語習得研究室分室――宮崎里司 教授)があり,日本語教育を主軸に多文化共生を視野に入れた新たな実践教育が展開されている。
今年度の具体的なテーマとしては
- ラボと隣り合わせにある文花中学校夜間学級
- 未就学に対する教育支援団体「えんぴつの会」に対する日本語教育支援
- 外国人児童やその保護者が地域になじむための生活支援
- 連続セミナー「すみだと考える多文化共生社会」の開講
- ビデオ会議システムを利用した,海外と墨田区内の小学校との国際理解教育への支援
などがあげられる。
担当する宮崎氏は,大学における教授の役割を次のように分析する。
「これからの教授は,研究と教育とコミュニティーサービスへの貢献で,総合的に評価されるべきです。従来は研究,教育への関心しか示さない教授が多かったようですが,これからは地域力(地域で何が起こっているのかを読み取り,地域と響きあえる力)がないといけません」。
また,宮崎研究室との連携を担うすみだ中小企業センター産学官連携室主査・郡司剛英氏は
「宮崎先生の提案は実に豊富です。先生の草の根運動のような細かい運動は地域のネットワーク化を構築するものになるはずです」
と活発な活動を評価している。さらに,具体的な提携をすすめる文花中学校夜間学級教諭・都野篤氏は宮崎研究室の院生が生徒のカウンセリングや取り出し授業のアシスタントとして入り込むことは,若年の生徒の相談相手として効果が上がっていると語った。文花中は,教諭六名,生徒四十三名の体制で,他に試験登校も若干名いるため,希望入学者に入学を待機してもらっている状況だ。入学しても,学習歴が短いため,ノートの取り方から,ロールプレイまで,学校での「歩き方」から指導をしなくてはいけないという。
一方,成人の生徒は家庭生活と学校生活の両立が必要だ。普段は地域や職場では孤立しているため困ったときに相談できる相手がいない。学校に相談が持ちかけられた場合,学習環境の一環として生活相談に応じている。
生徒の年齢は十六歳から六十八歳まで。国籍もフィリピン,台湾,スペイン,中国,韓国と多種多様である。「母語が異なれば,就学歴も異なり,未就学の方から,中学1年程度までの方もいます。段階に応じた取り出し授業きめ細かい指導などが必要です」。また,「毎日が即実践です。学んだことを学習者が使えること。サバイバルの言葉の知識が必要です」と,先の都野先生は,即戦力を指摘した。
卒業後は高校の定時制への進学や就職へ進む。多文化共生の中,特に生徒のニーズが異なる夜間中学の今後は産学官連携により一層の発展が進められている。
以上,『日本語教育新聞』22号(平成16年7月1日号)より転載。