研究紹介

胡 偉業績

博士後期課程27期の胡偉です。今日,中国における日本語音声研究,わたしの音声との出会い,音声研究者にとって語学の大切さ,わたしの勤務先について個人意見をめぐって,思いついたことを綴ります。

中国における日本語音声研究は,日本語学や日本文学より後れを取っているように思えます。文部科学省に当たる教育部の下で,外国語教育指導委員会が設けられていて,さらに日本語分科会があります。この日本語分科会は,すべての大学の日本語学科に共通する教育シラバスを作っています。必修科目としては日本語精読,日本語会話,日本事情,日本文学などがありますが,発音を取り立てる授業はありません。発音の指導を,初期段階の精読授業や日本人教師が担当する会話授業に委ねる方針のようです。大学院ともなると,研究方向は日本語学,日本文学,日本文化の三つが主流で,音声学の研究を行う日本語の先生が少ないため,学生もまれです。2016年5月に上海で開かれた中国日本語教育学会の予稿集を見たら,百何十本の論文のうち,音声に関するものはほんの3本ぐらいで,まさに「雲泥の差」です。

このような現状で,わたしは音声習得研究の道に踏み出しました。

偶然といえば偶然ですが,運命だと捉えています。わたしは,去年外国人研究者として一年間日研の宮崎先生のもとで研修していました。最初は,言語学をもっと勉強したくて,シラバスで検索して,法学部の北原真冬という先生が担当することが分かりました。すると,聴講のお願いをしたところ,音声学の授業もあるけど,出てこないと誘われました。それがきっかけで,音声学の面白さを知って,その知識を日本語教育の現場で生かせれば,発音の改善に役立つと考えました。

幸いなことに,音声習得研究のしたい時分に戸田先生あり。戸田先生に甘えて,「音声・音韻」の講義を聴講させていただいて,聞いているうちに,「そうか。そのとおりだな。うん,うん」とうなずいてばかりいました。それで,音声習得研究の魅力を感じられて,音声の研究に心を捧げようと決心しました。運命に恵まれて,修士まで日本語学を専攻している音声学の素人であるわたしは,精いっぱい頑張ってやっと戸田研に入りました。研究テーマとして,中国人学習者にしてみれば問題が目立っている清濁の習得を選びました。知覚実験と生成実験によって,習得の実態を把握したうえで,第二言語習得の枠内で個人要因や学習ストラテジーを考察して,指導法や改善策を探る発想です。

音声習得研究をして,もう一つ実感したのは外国語を身につけることの大切さです。戸田研で博士号を取った劉佳琦先輩は,中国語はもちろん日本語をマスターしているからこそ,中国人学習者に対して東京語の動詞アクセントに関する研究ができて,木下先輩大久保先輩もそれぞれ韓国語と広東語に堪能しているから,韓国人と中国人を対象とした研究ができたわけです。そして,何より,戸田先生は,拝聴している限りでは,英語,中国語を話していらっしゃるのです。これから,わたしもi+1を目指して,英語の文献を読むから英語は言うまでもなく,仏教の国タイに憧れているからタイ語も勉強しようと思います。みなさんも,特に日本語母語話者のみなさんも,一緒にもう一つの外国語を勉強したらいかがと思います。音声習得研究に役立つだけでなく,視野も広がって,楽しいです。

もし,中国語に興味を持っているなら,わたしを含めて戸田研の中国人留学生がたくさんいて,だれでも豊かな情報源ですから,どんどん使ってください。そして,機会があれば私のふるさと大連,今の勤務先東北財経大学に遊びに来てください。

photo東北財経大学は,日本とのつながりが深い中国の港町――大連に位置しています。1952年に創立され,会計学院や統計学院をはじめ,36学院があります。キャンパスは0.553km2で(東京ドームの11倍),中国の大学にしては広いものではないものの,春夏秋冬,季節によって違う風景の趣が味わえるところで,花見の名所としても名を馳せています。特に名誉教授である二階俊博(としひろ)先生に贈与していただいた数百本の桜の木が,春のキャンパスを飾ってくれます。

私が所属している国際商務外国語学院には,日本語学科が設置されています。中国人教師15名,日本人教師2名が在職していて,毎年50人前後の学部生,10人前後の大学院生を受け入れています。学部生の授業としては,日本語精読や日本語会話のほか,会計,国際貿易,マーケティングなどビジネス関係の授業も設けられています。

在籍生は,積極的にスピーチコンテストや作文コンクールに参加して,全国レベルの大会で受賞するのも珍しくありません。卒業生は,日系銀行(e.g., みずほ)やグローバル企業(e.g., IBM)で入職したり,国内外の大学院(e.g., 早稲田大学大学院商学研究科)に進学したりして,世界各地で活躍しています。

以上,中国における日本語音声研究,わたしの音声との出会い,音声研究者にとって語学の大切さ,わたしの勤務先について個人意見を述べさせていただきました。興味や意見または異議をお持ちの方,ご教示を賜りますよう,ご連絡願い申し上げます。