第3号(2012年5月刊行)
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研究論文
相互主体的な関係性の中で形成される「移動する子ども」と親のアイデンティティ ―― ことばの発達過程を捉える親のまなざしの変化に着目して
佐伯なつの
- ■要旨
- 本稿では,幼少期から複数言語環境で成長する「移動する子ども」のことばの発達過程を親の視点から振り返り,ことばの発達を捉える親のまなざしにどのように変化があったのかを検討した。その結果,子どもの言語教育に大きな影響を与える存在とされる親もまた,子どもが見せることばの発達の様相に影響を受けながら,親としてのあり方を模索する動態的な存在であることが明らかになった。また,子どものことばの学びに向き合い,相互主体的に自らのアイデンティティ形成を図ることを通して,親もまた子どものことばの学びを支える実践者となり得ること,それにより,子どものアイデンティティ形成を広く支える言語教育の可能性が開かれることが示唆された。
- ■キーワード
- 「移動する子ども」
- 親
- アイデンティティ
- ことばの発達過程
- 相互主体
- ■Entry
- 佐伯なつの(2012).相互主体的な関係性の中で形成される「移動する子ども」と親のアイデンティティ―ことばの発達過程を捉える親のまなざしの変化に着目して『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,1-24.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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「移動する子ども」は他者との関わりの中でことばとアイデンティティをどのように形成しているか ―― 幼少期より日本で成長したある高校生の事例から
太田裕子(早稲田大学オープン教育センター)
- ■要旨
- 本稿では,3歳より日本で成長した,ある「移動する子ども」の語りを,家族の語りと日本語支援者の観察記録によって補足しながら,彼が他者との関わりの中でどのようにことばとアイデンティティを形成してきたかを論じた。本事例研究から,幼少期より日本で成長した「移動する子ども」のことばとアイデンティティ形成について次の六点が明らかになった。(1) ことばの学びとアイデンティティ形成は,周囲の他者が子どものことばの「audibility」と正統性を認めるか否かに多大な影響を受ける。(2) ことばを学び,望ましいアイデンティティを獲得する過程で子どもは主体性を表す。(3) 自分のことばに対する意識とアイデンティティは密接に関係する。(4) 自分のことばとアイデンティティに対して否定的な意識だけでなく肯定的な意識を持っている。(5) 親の出身国やエスニック集団は必ずしも子どもにとって重要なアイデンティティではない。(6) 過去の記憶と,現在の意識,未来(進路)に対する意識は複雑に,しかし密接に関わっている。
- ■キーワード
- 幼少期より日本で成長した「移動する子ども」
- アイデンティティ形成
- 言語意識
- ダブルリミテッド
- ■Entry
- 太田裕子(2012).「移動する子ども」は他者との関わりの中でことばとアイデンティティをどのように形成しているか―幼少期より日本で成長したある高校生の事例から『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,25-48.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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過去‐現在‐未来をつなぐことばとアイデンティティの意味 ―「日本人らしい日本語」が話せない日本人である僕の物語から
鄭京姫(早稲田大学日本語教育研究センター)
- ■要旨
- 本稿は,過去‐現在‐未来をつなぐ「移動」の本質に迫り,ことばの教育とアイデンティティのあり方を考察することを目的とし,「移動する子ども」として成長した一人の日本語学習者の「日本語人生」に注目したものである。「日系アメリカ人」として生育したアキラ君は,「日本人らしい日本語」が話せない日本人であると自分を評価していた。だが,自身の日本語が自分の誕生から今を支えてくれて,自分の家族をつなげてくれて,これからもその日本語を通じて日系人は生き生きとアメリカで暮らしていくのだという意味を見出してからは日本語に対する思いが変わってきた。そして,「日本人としてのわたし」から「日系人としてのわたし」という自分像を描いていたが,「日系人としてのわたし」には限定的で固定的なアイデンティティではなく,過去‐現在‐未来をつなぐことばとともにありたい自分を探求・探索していること,その過程がアイデンティティ形成であったのである。さらに,自分のことばの教育とアイデンティティの重要性が示唆された。
- ■キーワード
- 「移動する子ども」
- 「移動」
- 日系人
- ことば
- ライフヒストリー
- ■Entry
- 鄭京姫(2012).過去‐現在‐未来をつなぐことばとアイデンティティの意味―「日本人らしい日本語」が話せない日本人である僕の物語から『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,49-72.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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複数言語環境にある親子はことばを学ぶことをどのように捉えているか ―― 複数のことばに対する意味付けの変容過程から探ることばの教育の可能性
本間祥子(早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程)
- ■要旨
- 本稿は,複数言語環境にある親子のことばの意味付けをどのような視点で捉え,ことばの教育のあり方を考えていくべきなのかを検討したものである。そのために,複数言語環境にある親子それぞれをことばの力を育む主体と捉え,親と子の複数のことばに対する意味付けの変容過程を追った。分析と考察から,ことばの教育という観点から親子にとっての複数のことばの意味付けを捉えるには,親子が複数のことばの間を行き来するなかで見出していくことばの意味を問う視点,親子が相互構築的に見出していく複数のことばの意味を問う視点,複数のことばに対する意味付けを社会的な観点から捉え直す視点をもつことの重要性が明らかになった。この三つの視点に立ち,複数言語環境にある親子それぞれが複数のことばをどう意味付けているのかを捉えながら,ことばの教育のあり方を考えていくことの重要性が示唆された。
- ■キーワード
- 移動する子ども
- 複数言語環境にある親子
- 主体
- ことばの意味付け
- ことばの教育
- ■Entry
- 本間祥子(2012).複数言語環境にある親子はことばを学ぶことをどのように捉えているか―複数のことばに対する意味付けの変容過程から探ることばの教育の可能性『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,73-90.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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子どもは,他者との関わりをどのように広げたか ―― ことばの使用に関する「主体性」の育ちに着目して
金丸巧(早稲田大学大学院日本語教育研究科博士課程)
- ■要旨
- 子どもの他者との関わりの広がりを支える支援者の役割を,ことばの使用に関する「主体性」の育ちに着目して論じた本稿では,ことばの使用に関する「主体性」の中核を成すのは不安感であること,その不安感と向き合いことばを使用することの認識を更新していく「主体性」の育ちが,子どもの他者との関わりの広がりを促していることが明らかになった。そして,支援者の役割としては,子どもの不安感に気付き,共に向き合い,考えていくための実践デザインと,支援者が認識する子どものことばの使用の意味を振り返り,内省する機会を持つことがあげられた。
- ■キーワード
- 他者との関わりの広がり
- ことばの使用に関する「主体性」
- 不安感
- 複数言語地域の教室
- ■Entry
- 金丸巧(2012).子どもは,他者との関わりをどのように広げたか―ことばの使用に関する「主体性」の育ちに着目して『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,91-108.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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研究ノート
「本」の世界を通して心とことばの学びを支える試み ―― 被災地での「せかい子ども音読大会」の実践から
大森麻紀,本間祥子(いずれも早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程)
- ■要旨
- 本稿は,東日本大震災の発生を受け,被災した子どもたちの心やことばの学びを支える試みとして行われた「せかい子ども音読大会」の成果を報告するものである。子どもたちの心のサポートとことばの学びという観点から,活動を振り返った結果,本の世界を通して,他者を理解し,自己表現をするというやり取りの中で,子どもたちがことばを学ぶ様子が明らかになった。さらに,音読大会の活動を通してことばを学ぶ過程は,子どもたちにとって楽しく,また自信を得られる機会であったことで,子どもたちの心のサポートにつながったといえる。音読大会の「場」が,震災により分断された人々,子どもたちのことばの学び,心の成長を繋ぐ役割を果たしていた点で意義があると言える。最後に,ここでの成果や気づきをこれからの年少者日本語教育に活かすことを今後の課題として挙げた。
- ■キーワード
- 「移動する子ども」
- 音読
- 心のサポート
- ことばの学び
- 東日本大震災
- ■Entry
- 大森麻紀,本間祥子(2012).[研究ノート]「本」の世界を通して心とことばの学びを支える試み―被災地での「せかい子ども音読大会」の実践から『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,109-119.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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書評
「移動する子ども」の壮大な家族史 ―― 一青妙(著)『私の箱子』講談社,2012年
川上郁雄(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
- ■要旨
- 本書は,「移動する子ども」である著者がその当事者として書いた「移動する子ども」の家族の歴史である。幼少期より複数言語環境で成長した子どもの記録と記憶,日本と台湾の間で構築されるアイデンティティ,さらに植民地主義の影響下で生きてきた,世代を超えた「移動する子ども」の家族の事例を提示している点で優れた学術的成果と言える。
- ■キーワード
- 「移動する子ども」
- 台湾
- アイデンティティ
- 日本語族
- 植民地
- ■Entry
- 川上郁雄(2012).[書評]「移動する子ども」の壮大な家族史―一青妙(著)『私の箱子』講談社,2012年『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,121-127.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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世界の子どものことばの教室
継承語としての日本語コース ―― シドニーからの報告
ニシムラ・パーク葉子(ニューサウスウェールズ州教育省)
- ■Entry
- ニシムラ・パーク葉子(2012).[世界の子どものことばの教室]継承語としての日本語コース―シドニーからの報告『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』3,129-134.http://www.gsjal.jp/childforum/journal_03.html
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