秋山幸(あきやま こう)

2020年6月18日現在

研究テーマ

カナダで,日本語を家庭内言語(Home Language)としている子どもやその家族が,周囲の人たちとのかかわりの中で日本語をどのように捉え,そして,それらが子どもたちに何をもたらすかを考える

研究について

移民受け入れ国のカナダでは,多様な言語・文化背景の人が暮らしています。社会生活の中にはたくさんの言語が存在しています。日本語使用家庭の人びとも,出自の言語が日本語だけとは限りません。英語圏にある現地の学校では,英語学習者(English Language Learner)として英語指導を受ける子どももいます。

一般的に,子どもの言語能力は,日本語の「読む・聞く・書く・話す」の4技能がアンバランスである,あるいは,不均衡なバイリンガル(マルチリンガル)であると評価されがちです。

しかし,子どもは日常の言語生活で,ある言語の力を個別に取り出しているわけではなく,「個人が自分のバイリンガル能力をどう使うか」(ベイカー,1996,p. 23)という場面に遭遇しています。相手がどの言語をどれくらい知っているかを察知してことばを調整したり,新来の子どもの手助けをしたり,そのとき選択・使用したことばによって自分の立場を表明したりしています。多様な言語・文化背景の人たちの言語選択・言語使用は,日本語使用家庭の親の言語教育観に影響を与えていくのではないでしょうか。子どもたちが他者とかかわり生きていくために,複数の言語を持つということは,子どもにとってどんな価値があるのかを考えていきたいと思います。

  • ベイカー,C.(1996).岡秀夫(訳,編)『バイリンガル教育と第二言語習得』大修館書店.

業績

論文

  • 秋山幸(2018).海外年少者日本語教育における親の言語教育意識研究の意義――日本語使用家族の親を文化的実践の参与者として捉え直す『早稲田日本語教育学』24,141-160.http://hdl.handle.net/2065/00057564
  • 秋山幸(2017).親から子どもへ向けた言語教育観が見据える人としての成長――カナダの日本語使用家庭に焦点を当てて『早稲田日本語教育学』22,1-20.http://hdl.handle.net/2065/00054100

発表

  • 秋山幸(2019年8月).「日本語背景を持つ子どもの親が捉える幼児の発達課題」カナダ日本語教育振興会2019年度年次大会(ビクトリア大学・カナダ).https://www.cajle.info/publications/conference-proceedings/cajle2019-proceedings/PDF
  • 秋山幸(2018年5月).「子どもの言語教育に関する親の選択・実践からことばの育ちを捉える――日系カナダ人の事例から」2018年度日本語教育学会春季大会(東京外国語大学).
  • 秋山幸,石井恵理子(2017年6月).「地域の拠点と人を横断する子育てネットワーキングにおける『学習』の実践――カナダの日本語背景の子どもを持つ母親の聞き取り調査から」異文化間教育学会第38回大会(東北大学).
  • 秋山幸,石井恵理子(2017年3月).「カナダで育つ日本語背景の幼児の親が抱える課題解決に向けたネットワーキング」子どもの日本語教育研究会第2回大会(早稲田大学).
  • 秋山幸(2016年3月).「絵本を媒介にした対話に現れる子どものことばの力と支援者の役割――日英二言語習得の幼児の事例」子どもの日本語教育研究会第1回大会(東京女子大学).
  • 秋山幸(2016年3月).「言語文化圏を移動した親の当該社会での位置取りから言語教育観を探る――カナダ永住を選択した日本語使用家庭に焦点を当てて」言語文化教育研究学会第2回年次大会(武蔵野美術大学).
  • 秋山幸(2015年9月).「複言語の子どもの親が行うことばの観察――カナダと日本を行き来する子どもの親を中心に」早稲田大学日本語教育学会2015年秋季大会(早稲田大学).
  • 秋山幸(2015年3月).「在カナダ日本人親の英語話者が参与する状況における言語行動意識」社会言語科学会第35回大会(東京女子大学).
  • 秋山幸(2014年6月).「カナダ居住日本人母の子どもとの相互行為によることば育て」異文化間教育学会第35回大会(同志社女子大学).
  • 秋山幸(2014年3月).「カナダ居住日本人母と子どもの言語的社会化」年少者日本語教育研究フォーラム第4回(早稲田大学).
  • 秋山幸(2013年2月).「外国につながる子どもたちの学びの場における協働の生成」年少者日本語教育研究フォーラム第3回(早稲田大学).

ひとこと

文字を持たない言語を第一言語としている人たちが,この世界にいることを知っていますか? 私が知っているそのような言語の人たちは,家族の長い長い歴史を豊かに語れる人を尊敬しています。人の話を聞くときは,人の顔(目)を見てはいけないという習慣があります。聞いたことを書き留めるのはナンセンスです。

そうは言っても,現代社会では,文字を使用しないわけにはいきません。アルファベットを使用しますが,どの文字がどの音を担うかは,一人ひとりの感覚によって違います。「あなたは,それをどう書くの?」と彼らは相手に問い,相手に合わせて綴ります。一人で黙々と書いて課題に取り組む態度は評価されません。

日本の学校で推奨されることとあまりに異なる価値観を持つ子どもたち,そのような子どもたちの輪の中で一緒に戸惑い,どうしたらよいか考え,やってみる,そんな私でありたいと思っています。