論文・学会発表

2010年5月22日:日本語教育学会2010年度春季大会パネルセッション
「日本語教育における教師研修のあり方を再考する――日本語教育協同連携の可能性」

日本語教育学会2010年度春季大会(2010年5月22日,早稲田大学国際会議場井深大記念ホール,15:50~17:50)でのパネルセッション「日本語教育における教師研修のあり方を再考する――日本語教育協同連携の可能性」の採用が決定しました。

宮崎のほか,以下のパネリストによる発表が行われます。

  • パネリスト (1): 嶋田和子(しまだ・かずこ)イーストウェスト日本語学校
  • パネリスト (2): 関本保孝(せきもと・やすたか)東京都墨田区立文花中学夜間学級教諭
  • パネリスト (3): 福間勉(ふくま・つとむ)公益社団法人全国老人福祉施設協議会・事務局長

パネル要旨

移民社会の到来が予見される昨今,外国人政策が問われるさまざまな領域では,日本語教育の非専門家が,教育実践を求められる事態に遭遇しており,日本語教育の知見や実践力の養成は喫緊の課題となっている。

こうした状況の中で,日本語教育を主業務としない,外国人専門研修や学校教育の担当者に対し,我々には,どのような社会的支援の責務が課せられるのだろうか。

本セッションは,今後,こうした潜在需要が見込まれる領域の関係者に対する研修のあり方を,公立中学校夜間学級の教員や,老人福祉施設関係者からの現状報告と緊急支援の要望に対し,教師研修のあり方を再考する。また,それに加え,日本語教育を主軸とする協同連携の可能性について提言する。

2010年3月20日:早稲田日本語教育学会パネル発表
「外国人介護福祉士候補生の日本語教育について考える」

  • 2010年3月20日(土)10:40~12:40
  • 早稲田大学 早稲田キャンパス15号館04教室(第二会場)
  • 発題者
    • 中野玲子(すみだ日本語教育支援の会)
    • 宮崎里司(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
    • 早川直子・奥村恵子(以上,日本語教育研究センター)
    • 吉井敦子(介護老人福祉施設加世田アルテンハイム施設長)
  • GSJAL日研による案内

外国人介護福祉士候補者受け入れ施設における日本語教育の現状に加え,外国人介護福祉士候補者に対する日本語教育教材開発について,新たに開発した,外国人介護福祉士候補者のためのバンドスケールについて,報告します。

2010年5月23日(土) 日本語教育学会2009年度春季大会パネルセッション
「外国人看護・介護士候補者に対する日本語教育――外国人労働者政策の観点から」

司会
宮崎里司(みやざき・さとし),早稲田大学大学院
パネリスト
春原憲一郎(はるはら・けんいちろう),(財)海外技術者研修協会
植村英晴(うえむら・ひではる),日本社会事業大学
宮崎里司(みやざき・さとし),早稲田大学大学院
二文字屋修(にもんじや・おさむ),AHP(Asia Human Power)ネットワーク協同組合

概要

OECD諸国では高齢化社会への対応と国内の労働力不足を補うために外国籍の医療従事者の人数は増加の一途にある。例えば,オーストラリアでは,外国籍の医師と看護師の比率は,それぞれ42.9%,24.8%を占め(International Migration Outlook, OECD, 2007),特にアジア出身の医療従事者が,医療・福祉システムの中核を担っている。

だが,今般の東南アジアとの経済連携協定(EPA)の条件では,短期間での国家資格取得や専門分野の日本語習得などといった状況がある一方で,日本人介護職員の高い離職率や有資格未修了者の問題などもあり,潜在的な能力を最大限に発揮させていく国内雇用対策とのバランスも考慮しなければならないなどといった現実に遭遇している。2015年には,生産年齢人口(15~64歳)2.3人で1人の高齢者を支えるほど人口動態が変化し(平成19年版『高齢社会白書』),これまでの国内完結型医療・福祉制度は,ケア労働の国際分業体制へと変化し,同時に,外国人看護師・介護士の待遇と人権保障を含む,受け入れ体制の整備も求められている。

本パネルセッションでは,今後潜在需要が見込まれる外国人看護師・介護士候補者研修のあり方を,日本語教育をキーワードに考える。

パネル内容

パネルは,4つの課題報告で構成する。

発表1では,まず70年以降のケア労働者のグローバルな移動について略述する。次にインドネシア,フィリピンからの看護師・介護福祉士の候補者受入れの現実を踏まえ,グローバリゼーションの第四段階と言われる人の移動の時代におけるケア労働者の言語間移動における三層化の実態について報告する。

次に,発表2では,日本における高齢化の現状,介護保険受給者の推移など高齢者介護をめぐる全般的な状況を報告する。そして,介護職員としてすでに日本で働いているフィリピン系の人々の現状と課題について述べ,これらの人々が生活支援の対象者でもあることを報告する。

発表3では,ベッドサイドは看護師の生甲斐とも言われるが,外国人看護師にとっては,そこで語られる医療的会話より世間話を含めたインターアクション能力のほうがはるかに難しい。接遇をしっかり身につけないと,患者や家族から信頼が得られないからである。ゲストスピーカーとして予定しているベトナム人看護師と共に,1994年から行ってきたベトナム人看護師養成支援を通して,医療現場におけるインターアクション能力習得事例を報告する。

そして,発表4では,東京都墨田区内の特別養護老人ホームにて,業務日誌の作成等に支障をきたす外国人介護ヘルパーに対する日本語教育を,区内の定年退職者でなどで構成するNPO法人のボランティア支援を受けながら行った,社会福祉法人での日本語教室設置運営(2008年度文化庁地域日本語教育支援委嘱事業)の実践を報告する。

以上の発表を基に,外国人労働者であるケアワーカーを,安価な労働力ではなく,少子高齢化を支えるパートナーとして,共存を前提とした定住予定者として捉えた場合,彼らに必要な「地域リテラシー」(宮崎,2009)をどのように習得させるかといった看過できない課題について問題提起する。

パネルセッションの意義

これまで,外国人看護師・介護士候補者の日本語教育の問題を扱ったパネルセッションはなかった。

EPAによる研修プログラムの成果は数年後に現れるが,今後,フィリピン,ベトナム,タイなどから,経済連携協定に基づく研修生が来日する状況の中で,我々学会関係者は,そうした候補者への日本語教育政策・施策を,いち早く具現化すべき立場におかれている。その意味でも,今回のセッションの意義は大きく,問題の共有化を図る好機であると思量する。