松本裕典(まつもと ひろのり)

21期生:2011年春入学

研究テーマ: 地域日本語教育から考える多文化共生のまちづくり

学位論文
  • 松本裕典(2013).『言語教育観の意識化と自己変容――過去・現在・未来を結ぶ自分誌実践の試み』早稲田大学大学院日本語教育研究科修士論文(未公刊).[概要書
  • 松本裕典(2011).『日本語教育による地域共生――浜松市外国人学習支援センターを事例として』都留文科大学文学部比較文化学科卒業論文(未公刊).
研究紹介

私の研究テーマは,「地域日本語教育から考える多文化共生のまちづくり」です。巷では「多文化共生のまちづくりを推進する」といういかにも結構な標語が掲げられることがあります。しかし,そこには大事なことが見落とされているような気がしていました。そもそも「多文化共生」とは何か,本当に実現することは可能なのか,と問いかけることからはじまらなくてはと思ったのです。そして,そこに暮らす住民それぞれがどのように「多文化共生」を捉えているのかという声に耳を傾けることが必要なはずです。

一方で,「多文化共生」が目指される場所としての「地域」には,主にボランティアの手による「日本語教室」と呼ばれるものがたくさんあります。そこではもちろん日本語学習や異文化交流といった活動が行われています。しかし「日本語教室」には,そうした目的のある活動だけに留まらない意義,「多文化共生」が目指される地域に「日本語教室」が存在している意義があるはずです。その地域に住む人々とって,教室を訪れない人々にとって,どんな意義があるかを考えることが,「多文化共生のまちづくり」を考えることにつながると信じています。それゆえ私は,「日本語教室」から「多文化共生」という怪しげな,けれども,重要な概念を考えてみたいと思うのです。

私の問題意識としては,どちらも「当事者」からかけ離れたところで議論されているような気がします。けれども,「かけ離れたところ」にいるように見える人々も「当事者」の一員です。そうして悩んでいるうちに,「かけ離れた当事者」を巻き込んで,「地域日本語教育」は「多文化共生のまちづくり」に何ができるのか,を考えてみたいと思うようになりました。中間発表を終え,いよいよ修士論文執筆に向けて真剣に本格的に動き出さなくてはなりません。どのような「地域日本語教育」ならば,「多文化共生のまちづくり」に貢献できるのかを悩み考えながら,私の実践に向き合ってゆきたいと思います。(2012.01.27.執筆)

関心のあるキーワード

地域日本語教育,多文化共生,まちづくり,言語教育政策,日系ブラジル人

主な参考文献
  • 愛知県(2002).『「多文化共生」推進に関する県民意識調査報告書』愛知県県民生活部国際課.
  • 横浜市都市経営局(2010).『外国人市民意識調査報告書』横浜市都市経営局国際政策課.

愛知県(2002)は,外国籍県民と日本人県民それぞれにほぼ同項目で「多文化共生」推進に関する意識調査を大規模に行なっている。その結果には双方の意識の違いが明確に表れている重要な資料である。横浜市都市経営局(2010)は,「多文化共生のまちづくり」について外国人市民に対して意識調査を行なっている。どちらも住民がどのような意識をもって「多文化共生」を捉えているのかを明らかにするうえでの数字としての根拠になりうる。

  • 佐竹眞明(編)(2011).『在日外国人と多文化共生――地域コミュニティの視点から』明石書店.

佐竹編(2011)は,東海地域の外国籍住民の置かれた状況と多文化共生の取り組みについての事例報告である。日本語教育学的な視点で書かれている論文はそれほど多くないが,地域から見た「外国人」像がよく捉えられている。注目すべき点は,「多文化共生」の理論が概要から定義まで整理されていることである。さらに,海外の事例についても言及されており,先進的な取り組みについてみることができる。

  • 長澤成次(編)(2000).『多文化・多民族共生のまちづくり――広がるネットワークと日本語学習支援』エイデル研究所.

長澤編(2000)は,「多文化共生のまちづくり」を目指した千葉県の事例を取り上げ,現状と課題を明らかにしている。外国人就労者,女性,子ども,オールドカマーといったさまざまな「外国人」との共生をめざす試みが掲載されており,関連諸団体の活動も紹介されている。現状で「多文化共生のまちづくり」の名のもとにどういった取り組みがなされているのかを把握するためには必須の文献である。また地域の日本語支援についても紙幅が割かれている。

  • 馬渕仁編(2011).『「多文化共生」は可能か――教育における挑戦』勁草書房.

馬渕編(2011)は「「多文化共生」は可能か」という根本的な問いに立ち戻り,政策的な側面と状況的な側面とから,その可否を論じたものである。「多文化共生」という用語そのものに潜む問題点も暴こうと試みている。また,非常に多義的に捉えられている「多文化共生」を捉えなおすという姿勢も重要な点である。「多文化共生」を日本語教育の文脈に引きつけて論じている論文も収録されている。また文献目録も非常に充実している。

  • 米勢治子,ハヤシザキカズヒコ,松岡真理恵(編)(2011).『公開講座 多文化共生論』ひつじ書房.

米勢ほか編(2011)は,浜松市で行なわれた公開講座およびパネルディスカッションのようすを収めたものである。日本語教育に関する講演だけでなく,産業,移民政策,日本社会といった切り口から論じられた講演が採録されている。講演の書き起こし記録ではあるが,質疑応答や各分野から捉えた「多文化共生」像が非常に熱を含んだ議論となって立ち現われている。「外国人集住都市会議」を発足させ,「多文化共生のまちづくり」を牽引してきたであろう浜松市で,「多文化共生論」と銘打つ公開講座が市民に開放されたことは,いかなる意味を持つのかを考察する手がかりとなるだろう。

業績

論文・書評
  • 松本裕典(2014年1月17日).この本がおもしろい:引き算する社会を乗り越える――「見えない生活者」を視る眼([書評]八木真奈美(著)『人によりそい,社会と対峙する日本語教育――日本社会における移住者のエスノグラフィーから見えるもの』早稲田大学出版部,2013)『ルビュ言語文化教育』476.http://archive.mag2.com/79505/20140117080000000.html
  • 松本裕典(2012).「新しい形の地域の日本語教室」と呼ばれて――「にほんご わせだの森」はどのような「教室」か『地域日本語教育実践研究』7,11-22.http://gsjal.jp/ikegami/report07.html
  • 松本裕典(2012).年少者日本語教育実践研究がもたらす日本語教育観の更新と「ことばの学び」――帰国予定のある子どもへの指導から考える『年少者日本語教育実践研究』18,66-77.http://gsjal.jp/kawakami/youngjis18.html
報告・エッセイ・記事
  • 松本裕典(2015年5月15日).『研究計画書デザイン』のここに注目:「わたし」の物語を書く教師へ『ルビュ言語文化教育』536.http://archive.mag2.com/79505/20150515080000000.html(再録:松本裕典(2015).コラム7:「わたし」の物語を書く教師へ.細川英雄『増補改訂 研究計画書デザイン――大学院入試から修士論文完成まで』(p. 53)東京図書.)
  • 松本裕典(2015).実践事例報告:「ニホンジン」とは誰のことか――「多文化共生」を読み解くために考える実践『DEAR News』171,8-9.
  • 松本裕典(2015).実践報告シート:「“外国人”が日本で暮らす」ということ.国際協力機構中部国際センター(編)『平成26年度開発教育指導者研修報告書』(p. 53)国際協力機構中部国際センター(JICA中部).http://www.jica.go.jp/chubu/enterprise/kaihatsu/shidousha/jissen/h26higher.html
  • 松本裕典(2014年7月3日).寄稿:恐れのなか批評するということ(100号へのメッセージ)『週刊「日本語教育」批評』100.http://archive.mag2.com/1573661/20140702235934000.html
  • 松本裕典(2013年8月21日).寄稿:看過と迎合の果てに――既視感・違和感・危機感の交錯する議論の場に佇んで思うこと『週刊「日本語教育」批評』55.http://archive.mag2.com/1573661/20130821235931000.html
  • 松本裕典(2013年7月3日).寄稿:「答え合わせ」の議論から,ともに考える議論へと『週刊「日本語教育」批評』48.http://archive.mag2.com/1573661/20130703235926000.html
  • 松本裕典(2013年5月8日).寄稿:「わかりません」のその先へ『週刊「日本語教育」批評』40.http://archive.mag2.com/1573661/20130508235857000.html
  • 松本裕典(2013).近況:“心に花の咲く方へ”『言語文化教育研究』11,450-451.http://alce.jp/journal/vol11.html#kinkyo
  • 松本裕典(2012).実践を開くとは何か――「にほんご わせだの森」12春の広報戦略『地域日本語教育実践研究』7,103-107.http://gsjal.jp/ikegami/report07.html
  • 松本裕典,角浜ひとみ(2012).2012年度春学期「にほんご わせだの森」実践報告『地域日本語教育実践研究』7,3-10.http://gsjal.jp/ikegami/report07.html
  • 松本裕典(2011).「多文化共生」とは何か――ポルトガル語を学ぶ「わたし」のなかにあるもの.チーム・ビートルズ(編)『「わたしのことば」たち――もしもチーム・ビートルズが対話活動をしてみたら』(pp. 24-33)チーム・ビートルズ.http://gbki.org/classkangaey11s.html
  • 松本裕典(2009).英語圏事情研修を終えて:そうして日本の良さを知る『都留文科大学報』111,7.http://www.tsuru.ac.jp/guide/digital_pamph/#anchor3
発表
  • 松本裕典(2016年3月12日).「「多文化共生」と真に向きあうための「リフレーミング」の発想」言語文化教育研究学会第2回年次大会口頭発表(小平:武蔵野美術大学).
  • 岩崎浩与司,阿久津亘,佐藤貴仁,福村真紀子,古屋憲章,松井孝浩,松本裕典(2015年8月1日).「日本語教育を問い直すためのハンナ・アレント勉強会」2015年度日本語教育学会実践研究フォーラムみんなの実践広場(さいたま:国際交流基金日本語国際センター).
  • 佐藤正則,白石佳和,萩原秀樹,松本裕典(2015年3月21日).「日本語学校における実践研究と連携の意味――連携はどのように可能か」言語文化教育研究学会第1回年次大会パネルセッション(東京:東洋大学).(発題部分:「地方×若手の一教師の視点から考える」)
  • 松本裕典(2015年3月21日).「日本語教育における自分誌実践の意義と課題」言語文化教育研究学会第1回年次大会口頭発表(東京:東洋大学).
  • 松本裕典(2015年2月8日).「「“外国人”が日本で暮らす」ということ」開発教育・国際理解教育実践報告フォーラム2015ポスターセッション(名古屋:JICA中部なごや地球ひろば).
  • 松本裕典(2014年8月9日).「「ニホンジン」とは誰のことか――「多文化共生」を読み解くために考える実践」第32回開発教育全国研究集会自主ラウンドテーブル(東京:聖心女子大学).
  • 松本裕典(2014年8月4日).「留学生とともに世界の教育について考える「世界一大きな授業」実践」平成26年度日本語学校教育研究大会ポスター発表(東京:国立オリンピック記念青少年総合センター).
  • 松本裕典(2012年10月20日).「問題意識の変容を記述する――協働実践研究による言語教育実践者としての立場の形成へ」第4回協働実践研究会口頭発表(東京:政策研究大学院大学).
  • 松本裕典,角浜ひとみ,マルケス・ペドロ,高須こずえ,田中奈緒(2012年9月23日).「重ねた「対話」がもたらす言語教育観の更新――「つながりをつくる」ことを目指した「にほんご わせだの森」の実践のプロセスから」早稲田大学日本語教育学会2012年秋季大会ポスター発表(東京:早稲田大学).
  • マルケス・ペドロ,角浜ひとみ,松本裕典,高須こずえ,田中奈緒(2012年9月9日).「「日本語話者」というアイデンティティ――「にほんご わせだの森」が目指す「つながりをつくる」ことの意味」国際研究集会「私はどのような教育実践をめざすのか――言語教育とアイデンティティ」口頭発表(東京:早稲田大学).
  • 松本裕典(2012年8月18日).「小規模大学における留学生の学習環境整備――学生の自主的な「日本語教育活動」を事例として」2012年日本語教育国際研究大会ポスター発表(名古屋:名古屋大学).
企画・講演
  • はままつ国際理解教育ネット(2015年11月15日).「話し合いを活性化させるためのスキルアップ」国際理解教育ファシリテーター養成リレー講座2015第3回ファシリテーター(浜松:浜松市多文化共生センター).
  • 松本裕典(2015年6月6日).「進路を選び取る――「キャリア教育」のめざすものとアカデミック・ジャパニーズ」アカデミック・ジャパニーズ・グループ第36回研究会話題提供(東京:早稲田大学).
  • はままつ国際理解教育ネット(2014年2月16日).「足下から考える多文化共生――みんなちがって,みんなイイ?!」第4回はままつグローバルフェア「国際理解ワークショップ」講座(2)ファシリテーター(浜松:クリエート浜松).
  • 奥山寛,沈紋紋,松本裕典(2011年9月24日).「映画上映会&対話ワークショップ――パリ空港の人々〈1993年 フランス〉」ワークショップ・ファシリテーター(東京:早稲田大学).
編集協力
  • 文部科学省初等中等教育局国際教育課(2014).『外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメント――DLA: Dialogic Language Assessment for Japanese as a Second Language』文部科学省初等中等教育局国際教育課.http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/1345413.htm

(2016年9月現在)

自己紹介

ご挨拶

このページをご覧のみなさま,はじめまして。日研修士21期生の松本裕典(まつもと・ひろのり)と申します。2011年4月に日研に入学し,2011年度秋学期より池上研究室の所属となりました。学部卒でそのまま日研に入学した若輩者です。出身は浜松市で,学部は山梨県都留市にある都留文科大学というところに通っていました。主専攻は国際文化論でしたが,副専攻で日本語教員養成課程を履修するなかで日本語教育についてもっと学びたいという想いが強くなり,大学院進学を決めました。まだまだ勉強すべきことばかりで日々研鑽を積んでおります。よろしくお願いいたします。(2012.01.27.執筆)

修了後の進路

このページをご覧のみなさま,お久しぶりです。おかげさまで2013年3月に日研修士課程を修了いたしました。私が入学当初に思い描いていた「日本語教育」観は,仲間の院生たちや先生方と議論していくなかで徐々に練磨され,ついには研究テーマさえも覆すほどの変容ぶりを見せてくれました。それと同時に,研究テーマの変更は表面的なものに過ぎず,今も深い根で結ばれているということにも気が付くことができました。このように私は日研で「考える」ということをひたすらに学びました。これがとても清々しいのです。修了後は2013年4月より,静岡市にある静岡日本語教育センターという日本語学校にて常勤教員として勤務しております。数年来の夢であった「日本語教師」としてデビューすると同時に,これからも「日本語教師」の役割とは何か,と考え続けて参りたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。(2013.05.04.執筆)