第16号(2025年11月刊行)

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目次

特集:記憶を育む/記憶と向き合う ― 子どものことばの実践を捉え直す


研究ノート ― 特集:記憶を育む/記憶と向き合う―子どものことばの実践を捉え直す


書評 ― 特集:記憶を育む/記憶と向き合う―子どものことばの実践を捉え直す


エッセイ ― 特集:記憶を育む/記憶と向き合う―子どものことばの実践を捉え直す






研究論文



実践報告


エッセイ


特集:複数言語環境で成長する子どもたちはどのように言語と向き合い,生きようとしているのか

緒言

川上 郁雄(編集委員会委員長)
■Entry
川上郁雄(2025).緒言―特集「記憶を育む/記憶と向き合う―子どものことばの実践を捉え直す」『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,1-2.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【特集:研究ノート】
ジュンパ・ラヒリのことばと記憶 ― 『翻訳する私』をめぐって

川上 郁雄(早稲田大学名誉教授)
■要旨
ベンガル人の両親のもとロンドンで生まれアメリカで成長した作家ジュ ンパ・ラヒリはエッセイ集『翻訳する私』(2022/2025)で独自の「翻訳論」を展開した。本稿では幼少期から複数言語環境で成長する子どもの言語習得と成長を捉える視点を認知科学の知見をもとに設定した。その視点からラヒリの「翻訳論」を読み解くと,ラヒリの幼少期からの移動と複数言語に関する経験と記憶が,彼女の「翻訳論」と生き方に強く影響している可能性があることがわかった。最後に,この「翻訳論」に含まれる論点が「移動する子ども」学の主題につながることを指摘した。
■キーワード
  • ジュンパ・ラヒリ
  • 翻訳論
  • 言語習得
  • 複数言語環境
  • 移動とことばの記憶
■Entry
川上郁雄(2025).ジュンパ・ラヒリのことばと記憶 ― 『翻訳する私』をめぐって『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,3-26.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【特集:書評】
《はざま》の記憶のなかで息づく受肉した言葉 ― ナヴァー・エブラーヒーミー(2023).酒寄進一(訳)『十六の言葉』駒井組.

小幡 佳菜絵(北京大学),ストゥルーベ 友紀(Columbia Basin College)
■要旨
本稿は,イラン系移民である作者がドイツ語で執筆した小説『十六の言葉』の書評である。この作品の主人公は,作者同様イランにルーツをもち,幼少期にドイツに移住した30代女性である。本書は,彼女の「母語」であり幼少期以降の記憶に息づく16のペルシア語の言葉,そしてこれらの言葉に紐づく主人公のライフストーリーの断片を主軸として構成されている。本稿では,本書を「移動する子ども」学の文脈に位置付けたうえで,主人公の「移動する子ども」という記憶のあり方について中心的に検討することを試みる。その際,理論的な手がかりとして,「受肉した意味/言葉」「Chronotope」「Ways of being/belonging(存在のありよう/帰属のありよう)」といった概念を参照しながら考察する。総じて本書は,イランとドイツ,ペルシア語とドイツ語,イスラム文化圏とヨーロッパ文化圏という,多層的な《はざま》を生きる経験と記憶,それに伴う葛藤や,その葛藤に対する受容的な態勢を模索する営みを,一人称の視点から読者に鮮明に伝える卓越した作品である。
■キーワード
  • 《はざま》
  • 「移動する子ども」
  • 受肉した言葉
  • Chronotope
  • Ways of being/belonging
■Entry
小幡佳菜絵,ストゥルーベ友紀(2025).《はざま》の記憶のなかで息づく受肉した言葉―ナヴァー・エブラーヒーミー(2023).酒寄進一(訳)『十六の言葉』駒井組.『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,27-38.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【特集:エッセイ】
記憶を繰り返して育むことば ― 2歳までの言語活動を振り返って

小坂 茉莉子(アメリカ コネチカット州在住)
■Entry
小坂茉莉子(2025).記憶を繰り返して育むことば―2歳までの言語活動を振り返って『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,39-49.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【特集:エッセイ】
移動とことばの記憶,音の記憶 ― 複数言語とともに成長したある女性の語りを聞いて

川上 郁雄(早稲田大学名誉教授)
■Entry
川上郁雄(2025).移動とことばの記憶,音の記憶―複数言語とともに成長したある女性の語りを聞いて『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,50-57.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【特集:エッセイ】
移動の記憶

上田 潤子(早稲田大学日本語教育研究センター)
■Entry
上田潤子(2025).移動の記憶『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,58-64.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【特集:エッセイ】
私が文化やことばを継承するとき ― 母の四十九日に,名前も知らない料理を作りながら思うこと

竃土 愛浪(早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了)
■Entry
竃土愛浪(2025).私が文化やことばを継承するとき―母の四十九日に,名前も知らない料理を作りながら思うこと『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,65-70.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【研究論文】
「移動する子ども」のアイデンティティ形成における他者のまなざしと教育環境の差異の影響―中・日・韓を移動した若者のライフストーリーから

呉 静妍(昭和女子大学大学院文学研究科満期退学)
■要旨
本研究は,中国・日本・韓国間を移動した20代女性L さんのライフストーリー分析を通じて,「移動する子ども」の概念を分析枠組みとしアイデンティティ形成に関与する二つの要因を特定し,それがどのようにアイデンティティ形成に影響をしているかを明らかにした。アイデンティティ形成の主要因として,「外国とのつながり」に対する他者のまなざしと教育環境の差異が特定された。「外国とのつながり」は,日本では孤立感,中国では疎外感を生んだが,韓国では「多文化的資源」として肯定的に価値化された。この変化は,アイデンティティが社会的文脈によって構築される動的概念であることを示す。教育環境の差異については,Lさんが経験した日本の小学校での探究的教育が基本的価値観を形成し,中国の中学・高校での受験中心的教育が批判的思考を発達させ,韓国の大学での多文化的環境が複合的アイデンティティの統合を可能にした。本研究は,移動する子どものアイデンティティ形成が他者のまなざしと教育環境の差異の相互作用による長期的プロセスであることを実証し,教育支援における学校文化差異への配慮の重要性を示唆する。
■キーワード
  • 移動する子ども
  • アイデンティティ形成
  • ライフストーリー
  • 他者のまなざし
  • 教育環境の差異
■Entry
呉静妍(2025).「移動する子ども」のアイデンティティ形成における他者のまなざしと教育環境の差異の影響―中・日・韓を移動した若者のライフストーリーから『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,71-96.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【研究論文】
文学作品が描く「移動する子ども」のアイデンティティ模索と構築の諸相―『紙の動物園』を事例とした試論

小幡 佳菜絵(北京大学)
■要旨
本稿は,『紙の動物園(The Paper Menagerie)』(リュウ,2015/2017)を事例として,「移動する子ども」学と文学研究の架橋を試みる学際的な試論である。本稿では,先行研究から抽出された「移動する子ども」のアイデンティティをめぐる3つの鍵概念,すなわち「名付けと名乗りの弁証法的営為」「自伝的記憶」「浮遊感」を分析枠組みとして措定する。これを基に本作品の主要キャラクターである「老虎 Laohu」のもつ象徴性を焦点化し,本作品が描く親子2世代にわたる「移動する子ども」のアイデンティティの模索と構築の諸相に迫る。この分析を通じた本研究の意義として,(1)従来各論として論じられる傾向のあった3つの鍵概念を,分析枠組みとして統合して分析事例とともに示した理論的意義,(2)書評や作家へのインタビューという従来の研究方法に加えて,文学作品のもつ象徴性を主題化して分析を試みた方法論的意義,及び(3)文学作品のもつ象徴性を「移動する子ども」の教育実践に応用する教育学的な可能性を指摘した社会的意義を,本稿では主張する。
■キーワード
  • 「移動する子ども」
  • アイデンティティ
  • 名付けと名乗りの弁証法的営為
  • 自伝的記憶
  • 浮遊感
■Entry
小幡佳菜絵(2025).文学作品が描く「移動する子ども」のアイデンティティ模索と構築の諸相―『紙の動物園』を事例とした試論『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,97-118.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【実践報告】
親子を対象にした複言語・複文化ワークショップ実践 ― 言語ポートレート活動は親子に何をもたらしたのか

久保 亜樹(JMHERAT運営委員,マラヤ大学予備教育センター),齋藤 沙夜花(元JMHERAT運営委員,ロンドン大学大学院博士課程),ツムサターン 真希子(JMHERAT運営委員)
■Entry
久保亜樹,齋藤沙夜花,ツムサターン真希子(2025).親子を対象にした複言語・複文化ワークショップ実践―言語ポートレート活動は親子に何をもたらしたのか『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,119-138.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【エッセイ】
発達に課題を抱える子どもの「ことば」を巡る物語 ― 複言語で育つ子どもの「ことば」を育むとは

中野 千野(私立特別支援学校教員,オーストラリア)
■Entry
中野千野(2025).発達に課題を抱える子どもの「ことば」を巡る物語―複言語で育つ子どもの「ことば」を育むとは『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,139-150.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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【エッセイ】
地域日本語教室と居場所について ― 母語とつながり,「子どもの気持ちが落ち着く場」を作るために

北村 名美(早稲田大学大学院日本語教育研究科修了)
■Entry
北村名美(2025).地域日本語教室と居場所について―母語とつながり,「子どもの気持ちが落ち着く場」を作るために『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』16,151-156.http://gsjal.jp/childforum/journal_16.html
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